●TIME LIMIT〜離別編〜 9●


「ち、千明ちゃん…どっちに行けばいいの?」

「わ…分かんない」


ようやく東京に到着した。

到着したんだけど……もう自分が今どこにいるのかも分からない。

急いで東京のガイドブックを開けた。

東京駅の地図も少しは載ってるけど…。


「JRに乗りたいんだけど…」

「駅員さんに聞く?」

「うん」


改札前にいる駅員さんに尋ねてみた。

「JR?何線?」

「えっと…」

「どこに行きたいの?」

「あ、市ヶ谷…です」

「ああ…それだと山手線の内回りか京浜東北線だね。秋葉原で総武線に乗り換えるか…もしくは1番ホームから中央線の快速に乗って御茶ノ水で乗り換えるか。ホームは向こうだから。あすこの通路案内所を過ぎると階段がたくさんあるから、内回りで行くなら3か4の階段を上ってね」

「はい…」

かなりの早口で思わず目がきょとんとしてしまった。


「千明ちゃん…駅員さんの言ってる意味分かった?」

「ううん…。でも山手線に乗ればいいんだよね…?」

「あ、それ聞いたことある」


取りあえず3番か4番の階段を目指してみた。

でも人人人で押されてぶつかってなかなか進めない。


「どうしてみんな急いでるんだろ…?」

「さぁ…?」


階段のあたりは特に人であふれかえってて、なかなか3番の階段までたどり着けなかった。


「3番は…京浜東北線で上野・大宮方面。4番が山手線で上野・池袋方面…か」

「どっちでもいいのかな…?駅員さん…乗り換えるって言ってたよね?」

「うん…」


取りあえず山手線に乗ってみた。

ドアのすぐ上には路線図があって…円になってる。

「ずっとクルクル回ってるのかな…?」

「うーん…」


ガイドブックの路線図によると、市ヶ谷は中の方の線だから…この交差してる秋葉原で乗り換え…かな?

代々木とも交差してるけど…ここからだと秋葉原の方が近いよね…?


考えてる暇もなく、5分もしないうちに秋葉原に着いてしまった。

慌てて飛び下りる。


「えっと…こっちかな?」

「総武線でいいんだよね…?」

「新宿方面の方かな…?」

半信半疑で乗り込むと、ドアの上の路線図にはちゃんと『市ヶ谷』の文字があった。

胸が高鳴る。


「あと3駅だね」

「楽しみ〜。千明ちゃんのお母さん、どんな人かな〜」

「…う…ん」


……でも

私のこと…分かってくれるかな?


『知らない。誰?』


なんて言われたらどうしよう…。

何から話せばいいんだろう…。

ちゃんと決めてくればよかった…。

どうしよう…。


緊張してきた…―



「ここだ。降りよ!」

「うん…」


ついに市ヶ谷に着いてしまった。

ホームページを印刷した地図を開けてみる。

棋院は…あっちだ。


この坂を上った……この建物。


「ホントだ!日本棋院会館って書いてある!わ〜」

「……」

「千明ちゃん!早く中に入ろ!」

「…うん」

美鈴ちゃんに引っ張られるまま中に入った。


中は結構ガランとしてて…ロビーには誰もいない。

向こうの売店には二人くらいお客さんっぽい人が本を読んでる。

それにエレベーター待ちをしてる女の人が一人…。

あ、目が合っちゃった。

そのお姉さんがこっちに来る。


「こんにちは〜」

「こ…こんにちは」

「碁を打ちに来たの?」

「う、ううん…えっと…ね」

「あのね、塔矢アキラに会いにきたの」

しどろもどろになってる私の代わりに、美鈴ちゃんがサラッと言ってくれた。

「塔矢アキラ?ファンなのかな?」

「ううん、千明ちゃんの…―」

「あっ、待って!」

慌てて美鈴ちゃんの口をふさいだ。

「し、知り合いなんです…」

「知り合い?…あら、お嬢ちゃんよく見ると塔矢にそっくりねー。いとことか?」

「う、うん…そんな感じ」

「でも塔矢…たぶんまだ対局中かな」

お姉さんが腕時計を見た。

「さっき午後のが始まったばかりだから…あと2時間はかかるんじゃないかなぁ」

「2時間…」

思わず美鈴ちゃんと目を合わせてしまった。

2時間も待ってたら…夕方までに帰るのは無理だ…。

でも…お仕事のジャマは出来ない…。


「ここで…待ってます」

「そう?じゃあ塔矢に言っといてあげるわね。お嬢ちゃんお名前は?」

「千明です。進藤千明…」

「え…?」

お姉さんの顔が固まった。


「進藤…?」


「はい…」


ど、どうしよう…。


進藤って出しちゃいけなかったのかな?


「あ…ゴメンね。進藤千明ちゃん…ね?塔矢に伝えておくわ。じゃあここで待っててね」

「はい…お願いします」

お姉さんがエレベーターで上に行ってしまった。


「千明ちゃん…2時間も待ってたら帰るの夜になっちゃうよ?お母さんに怒られちゃう…」

「私も…。お父さんに怒られる…。でも……」

「そうだよね…、ここまで来たんだもんね。何がなんでも会わなくちゃ」

「うん…」


会いたい…。


でも怖い…。


でもやっぱり会いたいよ…お母さん…―
















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