●TIME LIMIT〜離別編〜 8●


「いよいよ明日だね」

「うん」


1月。

お年玉をゲットした私たちは、ついに明日東京に出発することにした。

ルートの下調べはバッチリ。

お母さんの予定だってホームページでちゃんと確認済みだ。

明日は日本棋院で十段戦の予選って書いてた。



「お父さん、明日は1日美鈴ちゃん家で遊ぶから」

「分かった。昼ご飯は?」

「いらなーい」


出発は9時。

小学校前のバス停からバスに乗って、新幹線の出てる駅前で降りる。

新幹線を使うと東京まで2時間かからない。

東京駅から日本棋院のある市ヶ谷まではJR。

上手くいけばお昼すぎには着く予定だ。

で、お母さんに会って、また同じ道で帰ってくれば…夕方までには帰ってこれるはず。

頑張るぞ!




「行ってきまーす」

「美鈴ちゃんによろしくな〜」

「うん!」


お互いがお互いの家で遊ぶとウソをついた今回の旅。

ちょっとヒヤヒヤものだけど……全てはお母さんに会うためだ。

お父さんのこともお母さん自身の気持ちも知りたい。

いっぱい聞きたいことがある。

神様お願い!

会えますように!



「美鈴ちゃんおはよー」

「おはよー」


私の鞄の中には東京のガイドブックと、ルートを書いたメモ用紙とお財布のみ。

美鈴ちゃんの鞄の中はお財布と昨日買い込んだお菓子が入ってる。

新幹線の中で食べるんだ♪


「私、新幹線に乗るの初めて」

「ホント?私はお母さんと一緒に仙台のおばあちゃん家に行く時に乗ったことあるよ」

「速い?」

「うん!すっごく!耳が痛くなるぐらい」

「へぇ…」


おばあちゃん…か。

私にもおじいちゃんとおばあちゃんっているのかな?

お父さんだけじゃ不満ってわけじゃないけど……もしいるなら一度くらい会ってみたい…な。


「あ!バスもう来てる!」

「走ろ!」


何とかバスに間に合って、駅まで出発した。

今日は平日だから乗ってる人は会社員っぽい人が多い。

ちなみに私たちは学校サボってるわけじゃないよ。

今週まではまだ冬休みなんだ。


「千明ちゃん宿題終わった?」

「うん。去年のうちにやっちゃった」

「あのね、算数のドリルの最後の問題がどうしても解けなかったの」

「じゃあ明日か明後日に一緒に答えあわせしようよ」

「うん!」


1時間もバスにのれば景色は一変した。

田んぼの代わりに建物がいっぱい。

終点の駅前には人があふれかえってて、思わず美鈴ちゃんと離れてしまうところだった。


「…新幹線ってどこ?」

「あ、向こうって書いてあるよ。切符はどこで買うんだろ…」

「お母さんはいつも機械じゃなくて、駅員さんから買ってたよ。確かあすこ」


列の最後に並んでみた。

売り場の上には掲示板があって、発車時刻と空席状況が書いてる。

東京までは…こっちだな。

×はもう売り切れってことだよね?

○と△は大丈夫なのかな…?


「お嬢ちゃん達だけ?お父さんかお母さんは?」

「二人で行くの」

売り場のおじさんがあやしがってる。

「二人で大丈夫…?」

「うん」

「じゃあ…えーと東京駅まででいいのかな?」

「うん」

「指定席にする?もうUターンラッシュはおさまってきたから自由席でも座れるけど…そっちにしておくかい?」

「うん」

「禁煙車がいいよね」

おじさんがよく分かってない私たちの為にピッタリの席を選んでくれた。


「じゃあすぐ横の改札を出て5番乗りばだからね。今着いてるやつでも、次に着くやつでも、どっちに乗っても大丈夫だから。自由席って書いてある車両に乗るんだよ。あ、切符は改札で両方通してね」

「うん、ありがとうございました」


渡してくれた切符は二つ。

区間乗車券と新幹線用の切符。

こっちの区間乗車券の方で、もう市ヶ谷まで行けるらしい。

何だか感動の一瞬だ。


「二枚二枚…」


「5番5番…」


言われた通りの乗り場から、言われた通り自由席と書いてある車両に乗った。

「2時間ぐらいなんだよね?」

「うん」

「お菓子食べよ〜」

「うん!」


もうすぐだ。

もうすぐ東京に行ける。

待っててね!

お母さん!















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