●TIME LIMIT〜離別編〜 7●
「…あった。塔矢アキラ」
次の日。
学校のパソコンで昨日の『塔矢アキラ』を検索してみたら、何千件もヒットした。
ほとんどが囲碁関係だ。
写真…。
写真ないかな…?
適当にクイックしてみると、いきなり写真付の経歴の画面が出た。
「う…そ…」
私に…そっくり…。
髪型こそ違うけど…でも顔はそっくりだ。
この人がお母さんなのかな…?
歳は…お父さんと同じだ。
じゃあ今は28…?
現在九段…。
塔矢行洋元名人の娘。
女流のタイトルは入段した翌年からずっと四冠をキープ…。
他にも色んな大会で優勝してる…。
すごい…。
でもこれ…何のサイトなんだろ?
日本棋院…?
…ってなんだろ?
囲碁の団体か何かかな?
あ、この人知ってる。
緒方精次。
昨日新聞に載ってた今の名人だ。
塔矢行洋門下…ってことは、あのお母さんかもしれない人のお父さんの門下?
門下って…なんだろ?
所属かな?
んー…この人以外は全然知らない。
一体何百人いるんだろ…。
九段…
八段…
七段…
え…?
「…うそ……」
この名前…。
これって……お父さん…?
『進藤ヒカル 七段』
クイックするのが怖い…。
でも…!
押しちゃえ!
カチ…
「………」
出てきた写真は間違いなく……お父さんだ。
少し若いけど…。
14歳で入段してる…。
ってことは中学で…?
15歳で二段。
16歳で三段。
17で四、18で五…19で六…20で…七段…。
何これ…。
18で天元位…。
19で加えて本因坊と碁聖のタイトルも取ってる…。
20では…棋聖も…?
よく分からないけど…何だかすごそう…。
2006年、2007年の賞金ランキングが二年連続でトップだし…。
現在は……病気治療の為…長期休業中…?
復帰は未定…。
お父さん…病気なの?
嘘だよ。
だってお父さん…元気だもん。
じゃあどうしてこんな嘘書いてるの?
何で囲碁やめちゃったの?
でも……すぐに謎が解けた。
休みに入ったのが…2007年の7月だ。
私が生まれた時…。
私が生まれたから…やめたの?
どうして?
育てながらでも続けようと思えばいくらでも…。
何でわざわざこんな田舎に来たの…?
私の存在を隠したかったから?
お母さんとはうまくいってなかったの?
もう…
わけわかんない…
誰か教えてよ…―
「千明ちゃん?何か分かった?」
「美鈴ちゃん…」
「千明ちゃん泣いてるの?」
パソコンの画面を見た美鈴ちゃんが目を見開いた。
「これ…千明ちゃんのお父さんだよね?」
「うん…お母さんのこと調べてたら…お父さんも出てきたの…。お父さん…私のせいで囲碁やめちゃったのかな…?」
「お父さんに直接聞かないと!」
「無理だよ…聞けない…。お父さんもろいとこあるから…。これには病気って書いてあるし…」
「じゃあお母さんに聞いたら?どの人か分かったんでしょ?」
「うん…。たぶん…だけど」
「どこに行けば会えるの?」
「待って…」
その日本棋院の場所が書いてあるページを開けた。
「たぶん…ここ」
「東京…?遠いね…。電車で何時間かかるんだろ…」
「分かんない…。東京なんて行ったことないもん…」
「子供だけじゃちょっと怖いね…」
「うん…」
「何円ぐらいかかるんだろ…。おこずかい足りるかな…?」
「たぶん…無理。きっと往復で1万以上するもん…。貯金おろしたら大丈夫だと思うけど…通帳はお父さんが管理してるし…」
「私も…」
はぁ…とお互い溜め息を吐いた。
「じゃあ今年のお年玉を貯金するのやめる?そしたら…おこずかいと合わせたらなんとか…」
「美鈴ちゃんも付いてきてくれるの…?」
「当たり前じゃん!」
「ありがとう…」
また涙が溢れてきた…。
「じゃあ1月になったら行こうね!」
「うん!」
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