●TIME LIMIT〜離別編〜 6●
「いってきまーす!」
「気をつけてな」
「うん!」
お父さんに送りだされた後、私はおとなりの美鈴ちゃんと一緒に小学校に向かうのが日課。
「千明ちゃん、おはよ〜」
「おはよ〜」
物心がつく前から一緒に育ってる美鈴ちゃん。
お父さんはサラリーマン。
お母さんは近くのお花屋さんで働いてる。
ちなみに私にはお母さんはいない。
お父さんに聞いてもあいまいにしか答えてくれないから……きっと捨てられちゃったんだね。
お父さん、お給料も少ないし、頭もよくないから。
高校だって行ってないって言ってた。
ま、顔はそれなりにカッコいい気がするから、きっとお母さんはそれにダマされたんだな。
でも私に不満はない。
毎月ちゃんとおこずかいもくれるし、行きたいなら大学まで行ってもいいよって言ってくれてるから。
生活水準だって収入の割にはそんなに低くない気がするしね。
「いつ見ても千明ちゃんのお父さんてカッコいいよね〜」
「えへへ」
美鈴ちゃんはお父さんに会う度にカッコいいってほめてくれる。
「私のお父さん太いし40近いし、全然カッコよくないもん」
「でもすごく優しいよね。いつもお仕事頑張ってるし、うちのお父さんと大違い」
「千明ちゃんのお父さんってお仕事なに?」
「知らなーい。バイトしかしてないからたぶんフリーターってやつだよ」
「ふーん。何のバイト?」
「さぁ…?聞いても教えてくれないもん。私が学校行ってる間に働いてるみたいだし」
「一度見てみたいね」
「ね」
なんてことを美鈴ちゃんといっぱいお話しながら学校に向かう。
ちなみに私はクラスいち成績がいい。
テストはたいてい90点以上だ。
自分で言うのもなんだけど、あのお父さんからこんな優秀な子が生まれるとは思えないから、きっと私はお母さん似なんだなって思う。
顔もお父さんと全然違うから…たぶんお母さん似だ。
想像だけど、頭がよくて美人なお母さん。
一度でいいから会ってみたいな。
「そういえば、あたし昨日ね、進藤さんにそっくりな人見たよ〜」
「え…?」
休み時間、クラスの女の子が突然言い出した。
「ど、どこで?」
「テレビで」
「テレビ…?」
「うん。チラッとしか見なかったんだけど、何かオセロみたいなやつでね、丸い白黒の玉並べてた。将棋みたいな台に」
「それって…囲碁?」
「さぁ?」
「その人の名前は?」
「漢字がむずかしくて読めなかった」
「そんなに私に似てた?」
「うん!目とかハナとか顔が進藤さんにそっくりだったよ」
「……」
少し心臓が高鳴る。
「美鈴ちゃん…どう思う?」
「んー…お父さんに聞いてみたら?」
「お母さんって囲碁してるの?…て?」
「うん」
でも…あの秘密主義のお父さんが教えてくれるとは思えない…。
せめてその人の名前さえ分かればな…。
インターネットとかで調べれるのに…。
テレビに出てるぐらいだったらきっとヒットするはず…―
「ただいまー」
「お。お帰り〜」
お父さんが読んでた新聞をバサッと裏返した。
「おやつ食べる?今日はな〜、豆屋のどら焼きだぞ」
「ホント?!わーい」
お父さんが台所に行ったすきに、その新聞をひっくり返した。
「……あ」
囲碁だ…。
名人戦…?
白が名人…緒方精次。
黒が挑戦者…塔矢アキラ…。
アキラ…?
「ん?千明どうかした?」
「お、お父さん…も、囲碁とかするの?」
「え?」
お父さんの目が大きく見開いた。
「ん…、昔…少しな」
「ふーん。将棋は?」
「将棋は全然。中学の時に将棋部に嫌な先輩がいてさ〜。あんまりいいイメージがないんだよな」
「ふーん…。あ、美味しそう」
「いっぱい食べていいぜ」
「わーい」
空元気を演じてみた。
あのアキラって人…。
女性なのかな?
私が千明って名前なのは偶然?
それとも…――
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