●TIME LIMIT〜離別編〜 5●
「アキラさん、この方はどう?誠実そうで真面目そう。あら、学歴も凄いわ」
「………」
20代後半になった僕は、休みになる度に母にお見合い話をもちかけられてる。
後援会側が煩いんだって。
早く結婚させた方がいいって遠回しに言ってくるんだって。
そんなの…どうでもいいよ。
進藤に会いたい…―
彼と別れてもう何年だろ…。
年々彼への思いが募ってきて…自分の執着心に驚いてる。
離れてみて初めて気付いた思い。
10代の僕はバカだった。
素直に…彼の思いを受け止めればよかった…。
恋自体がどういうものなのかを知らなかったんだ。
でも…今なら分かる気がする。
キミの思いも行動も。
……でも
もう遅いのかな…?
ここ数年…キミを探してるけどちっとも見つからない。
どこに行ってしまったんだ…?
本当にもう二度と帰って来ないつもり?
僕らの子供を一体どこで育ててるんだ?
進藤…
キミに会いたい…―
「…アキラさん?聞いてらっしゃる?」
「…いえ」
母が溜め息を吐いた。
「進藤さんのことでも…思い出してたの?」
「………」
「一体今頃どこにいるのかしらね…」
「………」
「アキラさん…あなた覚えてる?あなたが19歳…だったかしら。進藤さんとデートに出かけた日のことを…」
え…?
「私ね、少しばかり盗み見しちゃったの…。あなたと進藤さんが…口付けしてるところをね」
「あ……」
途端に顔が真っ赤になったのが分かった。
「てっきりあなたと進藤さんが付き合ってるのとばかり…」
「…違います」
「でもアキラさん…、あなた翌年の夏に進藤さんの子供…産んだのよね?」
え?!
「どうして…それを…―」
母がもう一度溜め息を吐いた。
「母親はね…それに気付かない程バカじゃないわ」
「……」
「その赤ちゃんはどうしたの?」
「進藤に…」
「進藤さんに渡したの?」
「進藤に…あげました」
「どうして?結婚して、一緒に育てればよかったじゃない!」
「……その時は…別に進藤のことなんか…何とも思ってなかったから…」
「嘘おっしゃい!私だって気付いてたのよ?あなたが進藤さんのことを好きだってこと!」
「でも僕は…気付いてなかったんです…」
「……そう」
「……」
母がお見合いの写真を全て閉じて、袋に戻してる。
「このお見合いは…全て断っておくわね」
「すみません…」
「でもね…そろそろ決断してちょうだい。進藤さんが好きなら、さっさと見つけ出して結婚しなさい。見つけ出す気がないのなら…他の人と結婚しなさい」
「僕だって探してます…」
「そうね。手合いの間にちょこちょこね」
「……」
「ごめんなさいね…キツいこと言って…。あなたの人生なのにね…」
「……いえ」
「でも待ってるだけじゃ…いつまでたっても進藤さんには会えないわよ?進藤さんはタイトルも家族も何もかも全て捨てて…あなたとの子供を取ったのよ?それだけこの失踪は本気だってことよね…。きっとこのままじゃ…もう二度と帰って来ないわ」
そんなこと…分かってる。
彼がどれだけ本気だったのかぐらい…。
失踪直前の彼の言葉を思い出すと……嫌でも分かる。
「あなたと進藤さんの子供…見てみたいわ」
「僕もです…」
たった一週間しか一緒にいなかった子供…。
進藤…。
どんな子に育ってる?
NEXT