●KAKE 2●
「よしっ、僕の半目勝ちだ」
「ちぇっ…」
勝率はだいたい五分五分でお互い勝ったり負けたり。
僕が勝った時は思いっきり我が儘をきいてもらっている。
あれが欲しいこれが欲しいって、物欲を申し出たことももちろんあった。
悪いとは思っていない。
だってその代わり僕が負けた時は、大人しく彼の腕の中に収まってあげてるんだから―。
――そう
進藤は勝つと必ず僕とのセックスを求めてくるんだ。
バカの一つ覚えみたいに―。
そんなに僕を抱きたいのだろうか…。
「今日は何にするんだよ?」
「んー…そうだな…」
何にしよう…。
欲しいものももうないし…。
「あ、じゃあココに行きたいんだけど…」
昼間読んでた旅行雑誌を広げて、チェックしていた場所を指差した。
「ん?温泉…?」
「うん、最近やけに肩がこっちゃって…」
肩をコリコリ鳴すと、進藤が苦笑しだした。
「おいおい…まだティーンのくせにババァくせぇな」
「ウルサいなぁ。いいから連れてってくれ」
「はーい」
僕が行きたかったのは東京からほんの2時間で行ける北関東の温泉だ。
「ったく。オマエって金がかかる要求ばっかしてくるよな」
移動中の電車の中で、進藤が愚痴を零してきた。
「賭け碁をしようと言ってきたのはキミの方じゃないか」
「そうだけどさー、少しは遠慮してくれたって…。今回も宿泊費と移動費だけで4万以上かかるんだぜ?」
「負けたキミが悪い」
「……」
今度勝ったら覚えてろよ!的な目付きで僕の方を睨んできた。
「…キミだって欲しいものがあったら遠慮しないで言ってくれて構わないんだよ?何もいつも僕の体を求めなくても…」
「だってオレが一番欲しいのはオマエなんだもん」
「……」
サラッとそんなことを言われて、思わず顔が赤面してしまった―。
…でも進藤はバカだ。
僕が欲しいのなら、もっと上手い要求の仕方があるのに…。
『彼女になってくれ』
とかが一番手っ取り早い。
僕はどんな要求でもちゃんと呑むつもりなのに―。
「おー、結構広い部屋だな」
ようやく目的の旅館に着くと、広々とした一階の角部屋に案内された。
まるで一軒家のように玄関があって、和室、寝室、そして温泉の内風呂まである。
「塔矢〜、折角だから一緒に入らねぇ?」
「キミが勝ったらね」
机の上に早速折り畳みの碁盤を広げた。
「夕飯まで3時間あるから2局は打てる」
「それでオレが勝ったら、一緒に入ってくれるんだな?」
「ああ。1勝で混浴、2勝したら今夜僕の体を好きにしてくれて構わないよ」
「マジ?」
「その代わり負けたら僕のマッサージ師になってもらうからな」
「おう!」
「……負けました」
「ありがとうございました」
「…ありがとうございましたー」
進藤がガックリしたように畳に倒れこんだ。
結果は一勝一敗。
つまり一緒に温泉には入れるが、今夜のセックスは無しってことだ。
「ま、美容に睡眠不足は大敵だからな。今日は大人しく寝よう」
「ありえねーよ…。このシチュエーションで抱き合わない男女がどこにいんだよ…」
「ここにいる」
「……」
進藤が更に突っ伏してしまった。
「ほら起きて。早く入らないと夕飯の時間になる」
「……」
明らかに不貞腐れてしまったので、僕は仕方なくそれを口にした。
「お風呂の中で…してもいいから」
「…マジ?」
「……ああ」
そう言うと急に元気になった彼は体を起こして――僕を抱き締めてきた―。
「塔矢大好きっ」
「……全く」
自分の甘さに溜め息が出る…。
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