●KAKE 1●


「今日の対局は賭け碁にしねぇ?負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くってことで」

「面白そうだね。そうしようか」


その日――僕は進藤の誘いにうっかり乗ってしまった。


一色碁。

目隠し碁。

そして早碁。

僕たちは今までにも特殊な碁を打つことが度々あったから、今日もそのノリで少しワクワク気味に打ち始めた。


勝ったら何をしてもらおうか。

夕飯を奢ってもらおうかな。

今週末から始まる観たかった映画に付いてきてもらおうかな。

それとももう一局打ってもらおうか。


…だけど雑念を思い浮かべすぎて集中出来てなかったのか、それとも今日の進藤の調子がいつも以上に良かったのか……僕は負けてしまった。



「オレの1目半勝ちだな」

「そうだね…。残念」

「オマエ、これが賭け碁だってこと忘れてないよな?」

「もちろん。1つだけ言うこときくんだったよね?何にするんだ?」

「何でもいい?」

「いいよ」


進藤は少し考える素振りを見せた後、僕の目をジッと見て――それを口にした―。



「じゃあ……抱かせてよ」

途端に耳を疑う―。


「え……それって…抱擁の意味じゃなくて…?」

「うん、性交の意味」

「……」

ハッキリそう言われて、さすがに僕も固まってしまった。


……だけど彼の要求は当然と言えば当然のものだ。

進藤だって健康な16歳の男なんだし。

目の前の異性に何でも言うことをきくと言われて、一瞬でもそういう類いのものを思い浮かべない男はいないだろう。

まぁ…本当にそれを口に出す彼は強者だと思うが―。


…でも何でもいいと言ってしまった手前、今更引き下がれない。


「…分かった。いいよ」

「マジ…?」

進藤が驚いたように目を見開いた―。

「オレてっきり『ふざけるなっ』って怒鳴られるかと思ってた…」

「なんだ、冗談だったのか?」

「冗談じゃねーよっ!マジだぜ、大マジ!」

その言葉通り真剣な面持ちで立上がり、僕の側に近寄って来た。

「今から……してもいい?」

「…いいけど」

そう答えるとすぐに唇をキスで塞がれた―。


「…ん…っ―」


感触を感じとるように何度もついばんでくる―。

それが予想外に心地よくて……僕の方も自然と進藤の首の後ろに手を回してみた―。

更に体を引っ付け合って…長くて深いキスをした―。


「…んっ…―」


もちろん僕には彼氏なんかいたことないから、何もかもが初めてだ。

全く怖くないと言ったら嘘になる。

だけど好奇心の部分が勝っていることもあってか、異様に期待感に溢れ…胸がドキドキしていた―。



キスってこういうものなんだな…。


他人に体を触られるのってこんな感じなんだ…。


男の人の体ってこんなに…――



「…塔矢…好きだ―」


そして何より驚いたのが、彼の口から出た言葉―。

好き。

好きだ。

愛してる。

体を触られている間も、重ねていた間も、彼はそれをエンドレスに繰り返し名前と共に囁いてきた―。











「塔矢…」

約束の情事が終わった後も、進藤は僕を腕の中に抱き締めたまま…額や髪に何度もキスしてきた―。


「進藤…」

「ん?」

「キミは…僕のことが好きだったのか?」

「うん…好きだよ。ずっと前からな―」

屈折のない笑顔でそう言って、更に強く抱き締めてくる―。

「ありがとう…」

彼に好きだと言われて嫌な気はしなかったから、僕の方も自然と笑顔が零れた―。


「塔矢は…オレのこと好き…?」

「別に」

「……そっか」

あからさまに残念そうに沈んだ彼の顔が見てとれた。


「…なぁ、明日の対局も…賭け碁にしねぇ?」

「別にいいけど…」




――その日以来


僕らはほぼ毎日賭け碁をすることとなる――















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