●INTERVIEW 2●



進藤と僕はいいライバルで友達。

それが周りから見える僕らの関係。

嘘じゃない。

実際にそうなんだから。

追いかけて追いかけられて、ようやく手に入れたこの関係。

大切にしたいと思う。

壊したくないと思う。



…でも心の中じゃ僕はもっと別の関係をも望んでいる。



そのことに気付いたのはいつだったかな。

もう何年も前、ふとした瞬間気付いた。

僕って進藤のことが好きなんじゃ…、と。

気付いてからはこの心の中のモヤモヤに全て納得が出来た。

進藤が笑う度、怒る度、優しく接してくれる度…ずっと僕の心はドキドキしっぱなしだ。

この気持ちを伝えたかった。

ずっとずっとずっと――

進藤の方は僕のことをどう思ってるのかな?

それが知りたい―。


だから今日、すべてに決着を着ける為、進藤と出かけることにした。

告白するつもりはない。

ただ少し探りを入れるだけ。

もし進藤にその気がないのなら…僕はそのままライバルでい続けけるだけ。

それでいい。

ずっと悩んでいるよりよっぽど気持ちに整理がつく。

僕らはまだ辛うじて10代だ。

10代のうちに決着を付けたかった。



ちょうど今年が切れ目の年――
















「塔矢!やっぱ早えーなオマエ!」


僕の姿を見つけた進藤が走ってきた。

「キミも珍しく早いじゃないか。まだ約束の時間の5分前だよ?」

「へへっ、オマエと出かけるの久しぶりだからわくわくしちゃって」

少し頬を赤くした僕を見て、進藤が優しく笑った。


「んじゃ取りあえず南に出発!」

「え?どの海岸か決めてないのか?」

「当然。こういうのは適当に行き当たりばったりの方が感動が大きいんだぜ!」

「…ふぅん」



取りあえず京浜線に乗り込んだ僕たちは南に向かうことにした。

東京を出て、川崎も過ぎ、横浜も過ぎ、いくつか適当に路線も乗り換えて、周りの景色がだいぶ田舎っぽくなってきた所で僕たちは降りた。

窓から遠くに海が見えたからだ。


「んじゃゆっくり歩いて行くか」

「あぁ」


まだ何キロあるか分からない道を歩き始めたわけだけど、ずっとマグ碁を打ってたから1時間以上歩いてもそんなに苦ではなかった。




「僕の半目勝ちだな」

「ちぇっ」


一局打ち終わった頃にはちょうど海の潮の匂いを感じとれるぐらい近くにきていた。


「おー!すげぇ!」

堤防に着いた途端、進藤が海に向かって走りだした。

途中で靴も靴下も脱いで、ズボンも膝まで捲りあげ、波打ち際で少し海の中に入っていく。

「冷めてぇ!」

そりゃそうだ。

まだ5月だし。

進藤がはしゃいでいる姿を堤防の下の階段に腰掛けて、じっと見つめていた。

「塔矢も入れば〜?」

「いや、遠慮しておくよ」

それを聞いた進藤が僕の方に戻ってきて、隣りに腰かけた。

「海なんて久しぶり」

「僕も…」

「前来たのいつだったかな…」

進藤が思い出せないや、と階段に寝そべった。

海をじっと見つめている。


「そういやオマエ…来週から王座戦のリーグだな」

「うん…」

「勝てよ?」

「言われなくとも」

進藤の口元が笑った。

「オレも頑張らねぇと…もうすぐ二十歳だし」

「ついに正式に大人の仲間入りだね」

「おぅ!ようやく酒もタバコも解禁だぜ」

嬉しそうな溜め息をつきながら続ける。

「パチンコにも行けるし、親の承認なしで結婚も出来るし…二十歳って今思うとすげーな」

「うん…」


進藤の口から出た「それ」から僕はタイミングを逃さなかった。


「進藤は…結婚するの?」

「んー?分かんねぇよそんなの…。今んとこしたい奴もいねぇし…」

「彼女いたよね…?」

「あー…別れた。いいんだ、別にそんなに好きじゃなかったし…」


進藤が女性にモテるのは有名だ。

そして長続きしないのも――


「好きな人、いないの…?」

「……」

言葉を詰まらしてる。

何か答えてくれ。

この質問をする為に僕は今日来たんだ。


「オマエは…?いねぇの…?そういやオレ、お前のコイバナとか聞いたことねぇ…」

「……」

進藤が体を起こしてマイクを持っている素振りをした。

何を始める気だ?

「あー、あー、ただ今マイクのテスト中〜」

ゴホンと咳払いして、インタビューっぽく言い始めた。

「初恋はいつですか?塔矢六段」

「15の時です」

進藤の悪乗りにちょっと付き合ってみたら、進藤が大きく目を開いた。

「え!マジ?!」

マジってなんだ。

15は遅すぎって言いたいのか?

「あー、ではお相手は?」

「それは秘密ですね」

「では…どんな人ですか?」

「…明るい人です」

「……」

少し口を尖らして言葉を失ってしまっている。

「で、では…今は好きな人…いますか?」

「…います」

「……」

眉間に皺を寄せて、僕の方を呆然と見ていた。

「今でも…その初恋の人が好きです」



キミだよ…進藤…













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