●INTERVIEW 1●



抱き終わった後、すぐに背中を向けて寝てしまうオレに向かって、彼女は「冷たい」と言った。

誘ってきたのはそっちのくせに、事後行為まで要求すんなよな!

…と思ったけど、取りあえず「ごめん、疲れてるんだ」と言って逃げた。

いつもそんなオレに嫌気がさしてか、皆すぐ離れていっちまう。

別に追いはしない。

最初から長く続ける気なんてなかったし。

ただ少し可愛い子だったり、美人だったり、色っぽいお姉さんだったりしたから、相手がその気なら少しいい思いをさせてもらっただけだ。

気持ちは入っていない。

オレの気持ちはいつもアイツの所にある。

決して手に入れることの出来ないアイツ――

してる最中だって、終わった後だっていっつもアイツのことばかり頭に浮かぶ。

この子がアイツならいいのに…。

アイツならどんな顔をして、どんな声を出して、どんな感じ方をするんだろう…って。

もしアイツだったら絶対すぐに眠ったりしない。

こんなにあっさり体を離したりしない。

ずっと、いつまでも腕の中に閉じ込めておくのに。

好きだって、愛してるって、何千回だって何万回だって言えるのに。


アイツにだったら―



塔矢にだったら―
















「明日ってキミも休みだよね?久々に一緒にどこか出かけないか?」

「行く行く!どこにする?!」


手合いの休憩時間、意外な塔矢からのお誘いに、ご飯に集中してた顔を勢いよく上げた。


「でももうゴールデン・ウィークだからどこも人が多そうだな…」

「だよなー。今の時期にすいてる所って…」


塔矢があまり人混みが好きじゃないのは良く知っている。

しかも今年のGWは祭日と土日が上手いこと重なって世間は5連休、長い所だと7連休だ。

観光スポットを始めデートスポットにショップを含む商業施設もかなり混んでそうだ。

オレらは明日1日しかないから遠出も出来ない。

この首都圏で空いてる所って……あるのか?


「まぁ人込みは仕方ないか。進藤はどこか行きたい所ある?」

「んー…」


オマエとだったらどこでも…。

たとえ碁会所だろうがオレらの家だろうがいつものコースだって構わない。

…でもどうせなら人の少ない二人きりになれる所で、のんびりしたいな…。

――なんてのは言えないけど。


「オマエの希望は?」

「え?僕は別に…」

どこでも、と。

「じゃあディズニー・ランドは?」

「え…、さすがにそこは―」

「はは、嘘だって♪」

塔矢を困らせるためにわざと言ってみた。

GWのTDRなんてきっと半端な混み具合じゃない。

アトラクション一つに2時間待ちは必至だ。


「じゃあ…海は?」

「海?お台場とか?」

「そうじゃなくて、神奈川か千葉あたりの田舎の海岸に行ってさ―」


こんな提案、和谷達ならまず却下だ。

『何でせっかくの休みを野郎と海見て過ごさなきゃなんねーんだよ』

…て言われるのがオチだ。

でも言っちゃ悪いが塔矢は普通じゃない。


「へぇ…海岸か。いいね、そうしようか」

ほらね。

「んじゃ明日の朝9時ぐらいに東京駅の八重洲口に集合な!」

「分かった。あ、進藤!」

「ん?」

「マグ碁も忘れるなよ」

「……了解」

軽く手を挙げて、休憩室から対局場へと戻っていった。


フッ…

いいんだ…。

最初っから塔矢の目的なんて分かってる。

アイツはいつでもどこでも常に碁!碁!だ。

きっと明日の休みの日もオレと打ちたいから誘ってきたんだろう。

でも碁会所とかじゃいかにも碁しかしません!て感じだから、遠慮してどこかに出かけようと言ってきたわけだ。

塔矢と違ってオレは休みの日に家にこもるタイプじゃないから―。

でも海なら眺めながらゆっくり打てるな…とでも思ったんだろう。

全く…。


でもいいんだ。

オレはそんなアイツの真っ直ぐな囲碁に対する姿勢に惹かれたから。

元居た座席に座った瞬間、塔矢の顔は棋士の顔へと変化する。

オレのいる少し離れたこの席からでもその様子がはっきり見えた。

もう碁盤しかみていない。

きつい目で睨み付けているその表情は、さっきオレと話していた時とは大違いだ。

そんな塔矢を見るのが好きだ。

時と場所によってコロコロ変わるあの表情が大好きだ。

――もしオレが気持ちを伝えたら…オマエは今度はどんな表情をする?

驚くかな。

焦るかな。

固まるかな。

眉間に皺を寄せて、嫌悪感いっぱいの顔をされるかな。

気持ち悪いって…。

それとも…頬を赤く染めてくれるかな。

知りたいけど、知りたくない。

ライバルで友達というこのポジションが一番居やすい。

この関係を壊しちゃいけないんだ。

この気持ちに気付いて早4年。

オマエと出会って早7年。

いつかは話すつもり。

もう少し大人になって、お互いに家庭も持って、佐為のことについても話せるぐらいになったら…ついでに――

「オレって昔オマエのこと好きだったんだぜ」

って笑い飛ばせるぐらいになってから―。

思い出話になるぐらいになってから―。

急いで伝えてしまって、変な距離が出来て、残りの人生を苦しむくらいなら…伝えない方がマシだ。



オマエの笑顔をずっと見ていたいから――















NEXT