●IGOKON U 3●



進藤が松山に出かけた翌日。

オフだった僕は朝から体温計とにらめっこしていた。

基礎体温というやつを付けたら排卵日が分かるとネットに書いてあったからだ。

排卵日が分かればそれに合わせて進藤を誘えばいい。


「……」


さ――誘う??

僕が??

彼を――??


正直…自信がない。

何せ彼は月イチしか出さなくていいくらい淡白な男なのだ。

「えー面倒くせぇなぁ」とか言われて拒否られたら立ち直れない。

そもそも「子供なんていらねぇよ」とか。

終いに「もう離婚しようぜ」とか。

考えれば考えるほどマイナス思考になっていった。


でもこのままじゃ僕は母に永遠に責められ続けるだろう。

何せ僕は一人っ子なのだ。

塔矢の血を継ぐ子供は僕にしか産めないのだ。

何としてでも進藤をその気にさせて身籠らなければ…!!








「ただいま〜」


夜10時――進藤が帰ってきた。

てっきり帰ってくるのは明日だと思って油断していた僕は、慌ててリビングに散らばった本を片付ける。

全て妊娠や出産に関わる本だったからだ。


「塔矢?どこ?」

「こ、ここだよ。お帰り」と答えながら本棚の扉を閉めた。

「ずいぶん早かったんだね、明日かと思ってたよ」

「うん…中押し勝ちだから」

「そ、そう…、さすが進藤…」


進藤が椅子に置いてある本を手に取った。

しまった…!!一冊片付け忘れた…!!

慌てて彼の手から奪い取った。


「塔矢、今の本…」

「あはは…母に無理やり押し付けられた本だから気にしないで」


タイトルは『はじめての妊娠』。

顔から火が出そうだった。


「…明子さん、オマエに病院行けって?」

「え?」

「オマエさ、何でそんな大事なことオレに一言も言わないんだよ?」


進藤が僕に近付いてきた。


と思ったら、ぎゅっと抱き締められる――


え?


ええ??



「…いつから、言われてたんだよ?」

「病院は…3年前くらいかな…」

「3年?!」

「僕が三十路を過ぎたあたりから少しずつ煩くなって…」

「煩い?オマエは欲しくなかったの?」

「それは…」

「オレは欲しいよ。オマエとの子供――」



え……?



「欲しい…の?」

「当たり前だろ」

「だって、キミ…いつも付けてたし…」

「そりゃオマエの合意なしに勝手にナマでするわけいかねぇじゃん」

「月に一回しか求めてこなかったし…」

「我慢してたんだって!一応、囲碁婚だし…」

「……」

「でも何かもう、やめにしねぇ?こんな結婚…」

「…離婚するってこと?」

「じゃなくて。ちゃんと普通の結婚しようって話」


進藤が僕の左手を取った。

薬指に嵌めてある結婚指輪にキスしてくる――


「好きだよ塔矢…。本当はずっと好きだった…」

「進…藤…」

「オマエは…?」

「もちろん――」


好きに決まってる――そう答えた瞬間には、僕らは口を合わせていた――




「――…ん…っ、…ん…ん…っ」


今までのキスが何だったんだろうと思うくらいの、深くて長い、とろけるようなキス。

今まで10分で全てを終わらせていたけど、今はキスだけで10分経ちそうだった。


「―……は…ぁ……」

「塔矢……」


オマエの部屋行こ?と耳打ちされる。

着いた途端、ドアが閉まった途端にまたキスされて。

同時にパジャマのボタンに手をかけられる。

徐々に露になる肌にも彼の唇が落とされた――


「――…ぁ……」


何なんだろう。

一体なんなんだろう……これは。

一体誰なんだろう……この進藤は。

ベッドに倒された僕は、もう訳が分からなかった。

いつもならちょっと揉んでおしまいの胸に、執拗に攻めてくる彼。

乳首を舐められて吸われて弄られて、今までにない感覚を教え込まれる。

肌にこんなにもキスしてくる彼も、痕をつけてくる彼も、この10年間一度も見たことのなかった姿だった。


それに――


「塔矢…好きだ…」


好きだ。

好きだよ。

愛してる。

と恥ずかしげもなく愛の言葉を連発されて、ただでさえ恥ずかしくて真っ赤な顔が更に茹で蛸になった。



「…ぁ…ん…」


彼の手が、唇が、脚に伸びてきた頃には、自分の下半身が信じられないくらいに濡れていることに気付く。

こんなに濡れていたらいつもならすぐに彼は自分を押し込んでくるのに、今夜は焦れったいくらいに更に濡れさせられる。


「んん…、進…藤…」


早く。

早く挿れて…とこっちがお願いしなくちゃいけないくらいに長い愛撫。


「塔矢…いい?」


ようやく挿れてくれる気になった頃には、既に僕はグッタリしていた。

指で何度もイカされたからだ。


「――ぁ…っ、ん…っ、あ…ぁっ…」


だけど指と彼のモノは全然違って、僕の声も今まで出したことのないような甘くてイヤらしい声を連発し続けた。

気持ちいい。

こんなにセックスが気持ちいいことだなんて初めて知った気がする。

こんなにも汗だくになって、涙もたくさん出て。

生々しくてイヤらしくて――何より愛に溢れた行為だったなんて初めて知った気がした。

頭がおかしくなりそうだ。



「進…っ、僕、も…う…――」

「は…塔…矢…っ――」

「あぁ……っ!!」

「――…っく…」


上り詰めた僕と同時に、進藤も中に放出した。

息を整えながらも優しく何度もキスしてくれる。


「塔矢…可愛い」

「も…恥ずかしいから…」

「塔矢大好き…」

「うん……僕も」














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