●IGOKON 1●






「…アキラ、寝ちゃった…?」



既に電気の消された真っ暗な寝室。

ほんの1メートルほど向こうで眠っている妻に、オレは声をかけた。

当然返事はない。

耳を澄ますと微かに寝息が聞こえるから……寝ちまったんだろう。


「…はぁ」


と溜め息をついてオレも眠ることにした。












オレとアキラが結婚してもうすぐ三ヶ月。

ぶっちゃけ『囲碁婚』というやつに近い。

一緒の家に住んでるってだけで、やることなすこと話すこと、全てにおいて『碁』が中心だ。

そりゃあ…コイツとの結婚の決め手はやっぱり碁だったし?

今のこの環境を維持出来るなら多少は目を瞑らなくちゃいけないのかもしれないけど。


でも………不満だ。


普通の新婚生活も送ってみたい。

もちろん昼間はお互い忙しいから諦める。

せめて夜だけでも。

毎日とは言わない。

二日に一回……いや三日、いやいや一週間に一回だっていい。

とにかく…したい。


あー!そうだよ!

単なる欲求不満だよ!

くそっ!

布団入って5分で寝るなよな!

寝付き良すぎ!

起きろよ!

塔矢のバカぁっ!!


















「おはよう、ヒカル」

「……はよ」

「朝ご飯済んだら一局打つだろう?」

「打つ…」


10時就寝・6時起床のオレの奥様は、今日も朝からハイテンション。

栄養バランス100点満点の朝食を毎日用意してくれる。

んで、食べ終わったら一局。

仕事に行って当然また一局、さらに一局。

帰ってきたら検討を踏まえて一局。

夕飯食べて一局。

お風呂に入ってまたまた一局。

今日も一日囲碁漬けでした、お休みなさーい。



「………はぁ」



なんだかなぁ…



「どうかした?美味しくない?」


この後のことを考えてゲッソリしてると、アキラが首を傾げて覗いてきた。


「…いや、旨いよ」


旨いけど……



「…なぁ、明日ってオフだったよな?」

「僕はね。キミは研究会とか言ってなかった?」


オレの予定なんかどーでもいいし。


「なぁ…、今夜先に寝ないでほしいんだけど…」

「は?」

「一緒に…寝ねぇ?」

「毎晩一緒に寝てるじゃないか」

「まぁ…そうだけど、さ」


ホントに寝てるだけって言うか…



「とにかく!今日オレより先に寝るなよな。ちょっとは構えっての」

「……?」


アキラはオレの意図は察してないものの、取りあえず首だけは縦に振ったという感じだ。

あーあ…この結婚間違ってたのかも。

やっぱ碁の為に結婚なんかするんじゃなかった。


















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