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京田さんと付き合い始めて半年。

10
31日、土曜日。

私は棋院で開催されるハロウィンイベントの手伝いに来ていた。

もちろん参加棋士は全員仮装必須で、私は母と彩と3人でルネサンス時代のドレスを着てみた。

(母が緑で、彩が赤、私は青だ)


ドラキュラに仮装した父が、

「いいか京田君、佐為からお菓子を貰えなかったからって、イタズラしたら駄目だからな!」

とハリポタみたいな魔法使いに扮した京田さんに注意していた。

もちろん

「そんなことを考えるのはキミだけだろう!」

とすぐに母にツッコまれていたが。


「ぎゃー!アキラめっちゃキレイ!美人!可愛い!結婚して!」

父が人前にも関わらず、美しいドレス姿になった母に抱き着いてベタベタし始めた。

そこに居合わせた誰もが(もう結婚してるだろ…)と心の中でツッコんでいたに違いない。



「京田さんは魔法使いですか?」

「うん。ちゃんと丸メガネも準備してみた」

額の傷まで再現した京田さんが前髪を掻き上げて見せてくれる


(カッコいい…)


京田さんはメガネがよく似合う。

普段パソコンに向かう時もブルーライトカット用にメガネを掛けているのだけれど、インテリ度が50パーセントは増していた。


「進藤さん…、すごく綺麗だよ」

「そうですか?ありがとうございます…」

褒められて頬が赤くなる。

今回は髪型まで凝って、朝美容室でセットしてきた甲斐があった。

 


ハロウィンイベントでは、早指し公開対局、クイズ、トークショー、指導碁コーナーと色々行われていた。

一番の人気は仮装した棋士との写真撮影会で、棋士一人につき20分ずつ時間割りが組まれていた。

私の時はほぼ若い男性がお客さまで、ちょっと緊張した。

ちなみに京田さんの時は若いハタチ前後の女の子ばかりで、少しだけ嫉妬してしまう自分がいた。


(いいな…、私も一緒に写真撮りたい)

 

 

 

 


「お疲れ様でしたー」


17
時にイベントは無事終了。

全員で片付けを終え、解散となった。

更衣室でいつもの服に戻ると、ちょっとホッとした。

やはり普段着ない服を着ると肩も凝るし、疲れるものだ。


更衣室を出てロビーに行くと、京田さんの姿が。

ただ、さっき写真を撮っていた女の子達に囲まれていたので、また少し胸が痛くなった。

私に気付いた京田さんが、彼女達にサヨナラしてこっちにやってくる。

 

「お疲れさま」

「…お疲れ様でした」

「あっという間に終わっちゃったな」

「そうですね…。大盛況でよかったです」

「そうだな…」


京田さんが私の左手を取ってくる。

と思ったら指先にチュッとキスしてきて驚く。


Trick or treat?

と流暢すぎる英語で尋ねてくる。

当然甘いお菓子なんて一つも持ち合わせていない私。


「ごめんなさい…、何も持ってなくて」

「うん…、よかった」

「え?」

「心置きなくイタズラが出来る」

笑った彼の目は少しばかり欲情してるように見える。


「進藤さんのドレス姿…、ヤバかったから。今日一日ずっと我慢してた」

「え…」

「帰ったら、もう一度着替えてくれる?俺も写真撮りたい」

「きょ、京田さんも着替えてくれるなら…」

「いいよ…、お安い御用」


手を繋いで私達は棋院をあとにした。

向かった先はもちろん彼の部屋。


一緒に撮影会をしよう。

そして、私にいっぱいイタズラをしてね。

 

 


END

 

メガネで魔法使いな京田さんなんてヤバすぎでしょ!!ハアハア(by 彩)

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