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京田さんと付き合い始めて2ヶ月。

私達にとって初めてのイベントがやって来る。


6
20日――京田さんの19回目の誕生日だ。


「何をあげたらいいんだろう…」


お菓子みたいに食べたら無くなってしまうものよりかは、形として残るものの方がいいだろう。

普段使いできる何か……ネクタイ、ボールペン、時計、カバン…。

今日の対局は持ち時間も短く午前中に終わったので、昼からデパートにやって来た私。

紳士服売り場や小物売り場を彷徨うこと1時間。

意外に決まらない。

意外と難しい。

 


「あれ?進藤さん?」

「え?」


呼ばれて振り返ると、金森女流二段がいた。

女流の顔はあんまり覚えていないが、彼女のことはもちろんよく知っている。

クラスメートであり、棋士仲間でもある西条の彼女だからだ。


「進藤さんも買い物?」

「金森さんもですか?」

「うん。父の日のプレゼントを買いに」

「父の日…」


すっかり忘れていた。

京田さんの誕生日の次の日、621日は父の日だ。

私もお父さんにも何か買うべきだろうか……


「進藤さんは…、もしかして京田さんに?」

「え?!」

声が裏返る。

クスクス笑われた。


「ごめんね、悠一君から聞いて知ってるの。二人が付き合い始めたこと」

「そ、そうなんですか…」


西条のお喋りめ。

「誕生日が近いとか?」

「はい」

「私は去年は悠一君にネクタイあげたなぁ」

「そうですよね…、一番使ってくれそうだし」

「うん。イベントごとはスーツ必須だもんねこの世界は」


ネクタイ売り場には他の小物も色々売っていた。

ハンカチにタイピンに靴下にベルト。

そして――

 


「これ…いいかも」

「あ、本当だね」


金森さんも同意してくれた。

早速購入して、包装してもう。

ついでにハンカチも買う。

(お父さんにはこれで充分だ)

 

 

 

 


6
20日、土曜日。

この日は朝から会う約束をしていた私達。

ピンポーンとチャイムを鳴らすと、すぐにガチャリとドアが開く。


「いらっしゃい、進藤さん」

「お邪魔します」


部屋に入った後、早速「お誕生日おめでとうございます」とまずは言葉で伝えた。


「ありがとう」


そしてプレゼントを差し出した。


「気に入って貰えるか分からないんだけど…」


ドキドキしながら包装されたその小箱を渡した。

「ありがとう。開けてもいい?」

「うん…」


京田さんが丁寧に器用に包装を解いていく。

ビリビリ破らないのがやっぱり彼らしい。


「へぇ…、名刺入れ?」

「うん」

「ありがとう。今使ってるのだいぶ古びて来てたから助かるよ」


京田さんが早速今の名刺入れと中身を入れ替えていた。

棋士も意外と名刺交換をする機会がある。

イベントや式典ではしょっちゅうだ。

名刺自体は個人で注文発注していて、京田さんの名刺はすごくシンプルだ。


囲碁棋士 京田昭彦 そして棋院の住所と電話番号


「あれ?もう一種類あるの?」

「うん。こっちはプライベート用」


プライベート用?

こっちは名前と京田さんの実家の住所。


「こっちはいつ使うの?」

「……パーティとか?」

「パーティ…?」


京田さんがそのまま交換した名刺を整理し始めたので、ちょっとだけ覗かせて貰う。

なかなかの肩書の名刺ばかりだった。

この中で一番の大物はたぶんこの『日本銀行 総裁』。

(何か見てはいけないものを見てしまった気がする…)


「ありがとう、進藤さん。大切に使わせて貰うよ」

「うん――」


私達は早速キスし始める。

19
歳の京田さんと初めての――

 

 

 


END


 

 

ちょ、お兄ちゃん!私だって19歳の京田さんとはキスしたことないのにーーー!!by 彩)

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