●if B●
京田さんと付き合い始めて2ヶ月。
「何をあげたらいいんだろう…」
お菓子みたいに食べたら無くなってしまうものよりかは、形として
普段使いできる何か……ネクタイ、ボールペン、時計、カバン…。
今日の対局は持ち時間も短く午前中に終わったので、昼からデパー
紳士服売り場や小物売り場を彷徨うこと1時間。
意外に決まらない。
意外と難しい。
「あれ?進藤さん?」
「え?」
呼ばれて振り返ると、金森女流二段がいた。
女流の顔はあんまり覚えていないが、彼女のことはもちろんよく知
クラスメートであり、棋士仲間でもある西条の彼女だからだ。
「進藤さんも買い物?」
「金森さんもですか?」
「うん。父の日のプレゼントを買いに」
「父の日…」
すっかり忘れていた。
京田さんの誕生日の次の日、6月21日は父の日だ。
私もお父さんにも何か買うべきだろうか……
「進藤さんは…、もしかして京田さんに?」
「え?!」
声が裏返る。
クスクス笑われた。
「ごめんね、悠一君から聞いて知ってるの。二人が付き合い始めた
「そ、そうなんですか…」
西条のお喋りめ。
「誕生日が近いとか?」
「はい」
「私は去年は悠一君にネクタイあげたなぁ」
「そうですよね…、一番使ってくれそうだし」
「うん。イベントごとはスーツ必須だもんねこの世界は」
ネクタイ売り場には他の小物も色々売っていた。
ハンカチにタイピンに靴下にベルト。
そして――
「これ…いいかも」
「あ、本当だね」
金森さんも同意してくれた。
早速購入して、包装してもう。
ついでにハンカチも買う。
(お父さんにはこれで充分だ)
6月20日、土曜日。
この日は朝から会う約束をしていた私達。
ピンポーンとチャイムを鳴らすと、すぐにガチャリとドアが開く。
「いらっしゃい、進藤さん」
「お邪魔します」
部屋に入った後、早速「お誕生日おめでとうございます」とまずは
「ありがとう」
そしてプレゼントを差し出した。
「気に入って貰えるか分からないんだけど…」
ドキドキしながら包装されたその小箱を渡した。
「ありがとう。開けてもいい?」
「うん…」
京田さんが丁寧に器用に包装を解いていく。
ビリビリ破らないのがやっぱり彼らしい。
「へぇ…、名刺入れ?」
「うん」
「ありがとう。今使ってるのだいぶ古びて来てたから助かるよ」
京田さんが早速今の名刺入れと中身を入れ替えていた。
棋士も意外と名刺交換をする機会がある。
イベントや式典ではしょっちゅうだ。
名刺自体は個人で注文発注していて、京田さんの名刺はすごくシン
囲碁棋士 京田昭彦 そして棋院の住所と電話番号
「あれ?もう一種類あるの?」
「うん。こっちはプライベート用」
プライベート用?
こっちは名前と京田さんの実家の住所。
「こっちはいつ使うの?」
「……パーティとか?」
「パーティ…?」
京田さんがそのまま交換した名刺を整理し始めたので、ちょっとだ
なかなかの肩書の名刺ばかりだった。
この中で一番の大物はたぶんこの『日本銀行 総裁』。
(何か見てはいけないものを見てしまった気がする…)
「ありがとう、進藤さん。大切に使わせて貰うよ」
「うん――」
私達は早速キスし始める。
19歳の京田さんと初めての――
―END―
ちょ、お兄ちゃん!私だって19歳の京田さんとはキスしたことな