●if A●
京田さんと付き合い始めて1ヶ月。
「今度の土曜日空いてるんですが、一局打ちませんか?」
「いいよ。俺んち来る?」
「はい」
京田さんの家は私の家から4駅先にある。
何度かお邪魔してると、今まで知らなかった彼の勉強量が見えてく
部屋は常に整理整頓されていて、そして囲碁系の本はかなり多い。
「これでも絞って持ってきたんだけど…」
実家にはもっと大量に本があるらしい。
そう――彼はかなり囲碁に関してストイックだ。
きっと私が学校に行ってる平日昼間も、ずっと勉強と研究をしてる
さすが囲碁を始めて9ヶ月で院生に、院生になって2年10ヶ月で
しかも――師匠も無しで、独学で。
「あれ?あの布石本持って来なかったっけ…」
面倒だけど取りに行くか…、と溜め息をつく彼。
「ちょっと実家に本取りに帰ってくるけど、進藤さんはどうする?
「え?」
「一緒に来る?ここで待っててもいいけど。1時間はかからないと
「…行きます」
一緒に彼の実家に向かうことになった。
彼の実家は広尾だ。
いかにも高級住宅街にある、低層マンションの2階。
直ぐ近所にどこかの国の大使館もあって、警備も重々しい雰囲気。
「お帰りなさい、昭彦さん。あら…」
京田さんの家に行くのは2回目だ。
前はプロ試験の時に彩達も一緒に。
でも今日は一人なので、自ずと紹介されることになる――彼女とし
「前も1回来たことあるけど…」
「進藤さんよね?昭彦さんの師匠の娘さんの…」
「うん、そう。最近付き合い始めて…」
「まあ…!」
「進藤佐為です。よろしくお願いします」
京田さんのお母さんはいかにもマダムという感じで、でもどちらか
きっと育ちがいい、根っからのお嬢様なんだと思う。
お菓子作りが趣味らしく、この日も帰り際にたくさんお土産として
「帰って来るって連絡くれてたらもっと作って待ってたのに」
「いや、もう充分だから…」
お目当ての本を見つけた彼は、早々に帰ろうとする。
お母さんは少し残念そうだ。
「進藤さんもまたいらしてね」
「はい。お邪魔しました」
帰り際、マンションのコンシェルジュとやり取りをする彼からも、
(実際いいんだろうけど…)
今や外国人だらけの都内。
恵比寿まで歩くと、外国人に道を尋ねられることも少なくない。
もちろん私も喋れる方だと思ってたけど……
(京田さんの英語力はネイティブ並だ…)
それにフランス人だと分かればフランス語に切り替える。
ブラジル人だと分かればポルトガル語に。
中国人には普通語を、香港人には広東語を。
(京田さんて一体何者…?)
もちろん棋院も既に京田さんの語学力の高さは認識していて、彼は
「進藤さん…」
でも、どんなに彼が紳士でどんなにすごくても、やっぱり18歳の
部屋に戻って二人してしばらく本を読んでたら、京田さんが不意打
「――…ん……」
最初は優しく啄んで、しばらく続けているうちにどんどん深くなって。
そしてキスを解かれると……
「…いいかな?」
と最終確認される。
恋人の部屋に遊びに一人で来てるわけだから、私だって最初からそ
コクリと頷くともう一度キスされて、そしてベッドに押し倒してき
「…は…、佐為…」
普段は「進藤さん」呼びなくせに、情事の時だけ下の名前を呼び捨
でも、それも悪くない。
いつかずっと呼んで貰える関係になれたら嬉しい。
「じゃ、また研修会で」
「はい、お休みなさい」
「お休み」
最後はやっぱり家まで送ってくれる紳士な京田さん。
私が家に入って、鍵を掛けるのを見届けてから彼は帰って行った――
―END―
ちょ、待って!何でお兄ちゃんは即京田さんのお母さんに紹介され