if side:怜次E 前編〜彩視点〜





これはきっと1年間我慢した私達へ、神様からのご褒美なんだろう――

 


12
月に緒方先生が自分の父・進藤棋聖に挑戦が決まった夜。

タイトル戦のスケジュールも公になった。

3局の日程が213日・14日でしかも土日。

おまけに自分の母親が大盤解説を担当することに決定。

おまけに怜次のお母さん、怜菜さんもちょうど海外出張中だという

 


「……13日、泊まりに来る?」


いつものように放課後一緒に帰っている時、怜次に尋ねられる。

私はコクコク頷いた。

二人とも顔は既に真っ赤だ。

でも準備はきっと万全だ。

心の準備も、体の準備も――

 

 

 

 

 



この1年間、待ちに待ち続けたバレンタイン。

その前日213日・土曜日。

朝ご飯はお姉ちゃんと食べていた。


「お姉ちゃん、お父さんいないから、今日は京田さんち泊まるんでしょ?」

「…お父さんに内緒にしてくれる?」

「もっちろん!私のことは全然全く気にしないで楽しんで来て!」


昼過ぎにイソイソと京田さんちに向かうお姉ちゃんを笑顔で見送った私。

 


――よし。

 


これで邪魔者は全員いなくなった。

私もバッグに一泊分のお泊りセットを詰めて出発した。

 


電車を降りたあたりから異様にバクバク心臓が鳴り響く。

あっという間に着いてしまった緒方家。

少しばかり震える手でインターフォンを押す。


ガチャ…


「彩、いらっしゃい」

「う、うん…、お邪魔しますー…」


家主が今夜帰って来ない彼氏の家。

緊張する。

きっと、今までで一番。


いつもならすぐに怜次の部屋に直行するところだけど、

「何か飲む?」

とリビングに通された。


まるでモデルルームのような緒方家のリビング。

怜菜さんのセンスなのか緒方先生のセンスなのか、家具はどれもスタイリッシュでカッコいい。

この黒のソファーも弾力があってとても座り心地がいい。


「はい」

とカフェオレをくれる。


「ありがとう…」


向かいのソファーに怜次が座る。

お互い飲み物に口付けながら、無言の時間が過ぎる。

ど、どうしよう……気まずすぎる……

普段から無口な怜次がいつも以上に無口で、どうしよってなる……



「…棋聖戦、ちょっと付けてもいい?」

「う、うん!もちろん!」


怜次がテレビのリモコンを操作して、生中継されているその囲碁チャンネルを開いた。

自分達の父親が向かい合って座っている。

1
日目の昼過ぎなので、もちろんまだ評価値も五分五分だ。


「…彩の隣で観てもいい?」

「う、うん、もちろん!」


少し左に寄って、ポンポンと右手でソファーを叩いた。

ここに座って、と。

直ぐ様怜次が隣に移動してきた。

ちょっと近くて、膝が軽く触れる…。

私の顔はかろうじてテレビに向いているが、意識は完全に怜次の方ばかりに向いていた。


「彩…」


耳元で名前を呼ばれて、ドキリと心臓が飛び跳ねる。


「な、なに…?」


怜次の方に振り返る。

すると目の前に怜次の顔があって、ドアップで、ビックリした。

本当…、今にもキス出来そうな距離だ…と思ってると――


「――…ん……」

瞬く間に唇を塞がれた。

付き合い出してからはもちろん、数え切れないくらいキスしてきた私達。

軽く触れるキスからディープな大人のキスまでしまくっていた。


「…んん…、…ん…っ…」


今されてるのもどんどん深くなっていっていて…、終いには舌を絡め合っていた。


うう…、気持ちいい。

相変わらず怜次はキスが上手すぎる。

官能的で、体がどんどん火照ってくる。

このまま押し倒してほしくなる。

でもここは緒方家のリビングだ。

さすがに初めてをここでする勇気はない。

 


「…は…、彩…」

「…怜次…」


唇を離した私達は見つめ合う。

私は彼に1年前と同じセリフを言ってみた。


「…しちゃう?」

と――


もちろん彼も直ぐ様頷いてくれる。


「うん…、移動する?」


上を指さしてきた彼。

上とはもちろん3階――怜次の部屋だ。

私はコクンと頷いた。


手を繋いで、一緒に部屋を移動した――

 

 

 

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