●HIGH SCHOOL〜プロローグ SIDE:AKIRA〜


「塔矢〜、昼メシ食べに行こうぜ♪」

「うん」


――昼休み

いつものように隣のクラスの進藤が、僕を昼食に誘うためにうちのクラスにまでやってきた。


「キミ、またコンビニ?」

「だって自分で弁当作るのって面倒だしさー。学食は混んでるからオマエが嫌だろ?」

「まぁ…週に1回ぐらいだったらいいけど」

「んじゃ明日は学食に行こうぜ♪オレ久々に定食食いたいんだよな〜」

「分かった」


東館と西館の間にある中庭のベンチ。

僕らはいつもそこで昼食をとる。


「いただきまーす」

「いただきます」

進藤がコンビニで買ったパンにかぶりついた。

僕の昼ご飯はもちろん自分で作ったお弁当だ。

パンをもぐもぐ食べながら、横目で僕のお弁当をチラチラ見てくる。


「……なぁ、オレの分もついでに作ってくれちゃったりしないの?彼女だろ〜?」

「食費払ってくれるならいいよ」

「うわっ、カネ取る気かよ!」

「当然だ。毎日作ってると食材費もバカにならないんだよ?」

進藤がプウっと口を膨らましてきた。


「何だよ、ホテル代はいっつもオレが払ってんだし、それぐらいいいじゃんっ」

「それは…―」

いきなりそっちに話をふられて、僕は一気に顔が赤くなってしまった―。


「もう…分かったよ」

しぶしぶ無償で作ることをOKすると、進藤の顔はたちまち明るくなった。

「やりぃ!明日から塔矢の愛情弁当ゲットだぜ♪」

「…明日は学食だろう?」

「あ、そっか」


こんな感じで楽しい一時を過ごしてるうちに短い昼休みが終わり、僕らはまた別々の教室に戻ることとなる―。




「ね、塔矢さんて3組の進藤君と付き合ってるの?」

「え?」

5時間目が始まる直前に、隣の席のクラスメートが話しかけてきた。

「毎日進藤君、塔矢さん誘いにきてるよね。すっごいラブラブカップルって皆で噂してたんだ」

「そう…なんだ」

せっかく戻った顔がまたしてもカーッと赤面してしまった。

「ね、いつから付き合ってるの?」

「えっと……去年の秋から…」

「へぇ〜、同じ中学だったんだ?」

「ううん…違うけど―」

「あ、そっか。そういえば塔矢さんも進藤君も特待生だったっけ?えーと…囲碁だっけ?将棋だった?」

「…囲碁です」

「じゃあその囲碁つながりで知り合ったんだ?」

「まぁ…そうかな」

「いいなぁ〜、私も彼氏欲し〜い」

彼女がそう叫んだところでちょうど先生が教室に入ってきて、5時間目の古典が始まった―。



――そう

彼女が言った通り、僕と進藤はこの高校の特待生だ。

元々は高校には行かず、中学卒業と同時にプロ棋士として社会人スタートつもりだった。

それなのにどうしてこんなことになってるのかというと――



――話は去年の12月まで遡ることになる――


中学3年の11月、僕は進藤と付き合うことになった。

ずっと気になって気になって仕方がなかった彼との交際。

我ながらすごい浮かれようで、毎日のよう会って、打って、デートして、充実した日々を送っていたんだ。


だけど――

「もうすぐ卒業だね〜。やっぱり寂しいな」

「いいじゃん、俺らは高校も一緒だしな」

「そうだね。またお昼は一緒に食べようね」

「うん。放課後も一緒に帰ろうな」

「そういえば海王高って修学旅行アメリカじゃない?自由行動の時、一緒にショッピング行こうよ〜」

「お、それいいな。楽しみ〜」

思わずシャープペンをボキッと折ってしまうかと思った。


今の会話は中3の時同じクラスだったバカップルのもの。

休み時間ごとにベタベタベタベタして、一日中一緒にいて、外部受験をする他のクラスメートの気をいつも散らしていた存在。

僕も初めてこいつらを見た時は

「バカか?!」

と思ってしまった程だ―。


…だけど同時に羨ましくもあった。

進藤と付き合いだした後は特に―。


僕は海王中で、彼は葉瀬中。

学校が違う僕らはせいぜい放課後デートをするのが精一杯だ。

もし同じ学校だったら…彼女達のように会いたい時にいつでも会えて、学校の行事も一緒に楽しむことが出来たのに―。

そして思い出したのが『高校』という存在だった―。

そうだ。

同じ高校に行けば彼女達のような甘い学生生活を進藤と送るのも夢じゃないじゃないか!

そう思い立った僕は、4月から社会人という予定をすぐに変更し、進藤に提案した―。


「進藤、一緒の高校に行こう」


一番手っ取り早いのが進藤が海王高に来ることだ。

海王はエスカレーターだから、そうすれば僕は特に何もしなくていい。

だけど当然のように進藤は海王に入れるだけの学力はなくて……というか高校進学自体難しかった。

成績表を見せてもらった瞬間、思わず目眩がした程だ―。

これでよく中学が卒業出来たものだ…。

にしてもこの成績のままでは三流の私立高校さえ、合格は難しいかもしれない―。

それほど彼の学力は酷かったんだ…。


すぐにこの頭では筆記合格は無理だと判断した僕は、推薦入試に目をつけた。

今は多種多様な推薦の型式がある。

進藤の特技は『碁』。

そうだ、『碁』しかない!

こうなったらプロ棋士だという立場を最大限に利用させてもらおう!



そして見つけたのが今の高校。

文武両道をモットーに、各分野のエキスパートも養成してる都内でも有数のマンモス校―。

既にプロである僕らを、この学校は当然のように特待生として迎えてくれた。

もちろん手合いで出れない授業の単位も考慮してくれるという優遇付だ。

その代わりこの学校の囲碁部に、講師として月に何回かは教えに行かなくちゃならないんだけど―。


ともあれ、こうして僕らは同じ学校に通えることになったんだ―。










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