●GOOD BYE 6●
結婚て何の為にするんだろう―。
好きな人と一緒になるため?
家族を、子供を作るため?
両方違うよな。
少なくともオレは違う。
オレが好きなのは妻じゃないし、お腹の子供もオレの子じゃない。
じゃあ何の為に結婚したんだっけ…?オレって―。
半年前の自分を思い出してみた。
ただ周りに流されていたオレの姿が思い浮かぶ…。
去年のクリスマスの少し前、後援会長にそれとなく聞かれたのが始まりだった。
「進藤君、クリスマスの予定は入ってるのかい?」
「いえ、特に…」
塔矢と別れてから無気力気味だったオレに気をつかってくれたのか、それとも最初からそのつもりで聞いたのか
「紹介したい女性がいるんだがね」
そう言って見合いの話を持ちかけられた。
意外に母さんが乗り気になってしまい、そのクリスマスに早くも席が設けられることになった。
紹介されたのはオレより一つ年上の女子大生。
塔矢とはまるで違うタイプの、優しくて家庭的な感じの人だ。
適当に流すつもり、最初から断るつもりで臨んだ見合いだから、女友達と話すような感じで時間が過ぎていった―。
栞もそのつもりだったんだろう。
けれど周りからはいい雰囲気だと勘違いされて、気付いた時には話がうまくまとめられていた。
あっという間の婚約。
式は彼女が春に卒業した後で…だってさ。
「キミ、婚約したんだってね」
「おめでとう」
「結婚式には呼んでね」
まるでオレと付き合ってた半年がなかったかのような塔矢の口振り。
胸に酷く突き刺さった。
塔矢はオレがどうなろうと、誰と結婚しようがどうでもいいんだな。
オマエが必要としてるのはオレ自身じゃない。
オレの碁だけなんだ。
そう思うと行き場のない思いに更に落ち込んで、同時に吹っ切れようと婚約者に目を向けた―。
もういいや…オレはこの人と結婚するんだし…。
塔矢を好きだったことは忘れよう…。
――なんて出来もしないことを思ってみたりもした。
オレはずっとアイツが好きだったんだ。
半端じゃない期間…碁を始めた時から――5年以上も。
そしてもう耐えられなくなって、去年の夏にとうとう言ってしまったんだ。
「オレと付き合ってみねぇ?」
告白って感じじゃないけど、オレのことを何とも思ってない塔矢には…そう言うのが一番だと思ったから―。
特定の好きな奴はいないんだろ?
じゃあオレと付き合ってみてよ。
お試し期間みたいな感じでさ。
「いいよ」
あっさりOKを貰えて、オレも少し期待してしまった。
結構脈有りなのかな…?
そのうちオレのこと本当に好きになってくれるかな…?
だけど一向にアイツの気持ちはここに有らず、って感じだった。
何度キスしても、何度体を重ねても、ずっと抜け殻のようで…気持ちがこもってないのがよく分かった。
相手の気持ちが向かないことほど辛いものはない。
「もう別れよっか」
オレは逃げたんだ、その辛さから―。
だけどやっぱり逃げるんじゃなかった。
塔矢が好きだ。
好きだ好きだ好きだ。
一緒にいたい。
オレのものとして側においておけばよかった―。
別れるんじゃなかった―。
こんなに狂うほど塔矢が好きなのに、現実に妻として隣りにいるのは別の人…。
それでも、オレの子供を産んでくれるんだったら…まだ少しはこの結婚に意味があったのかもしれねぇけど―。
「このお腹の子はヒカル君の子供じゃないから…」
栞が真っ青な顔して真実を告白してきた。
「お前…浮気してたの?」
「ごめんなさい…」
「……」
でも…オレに栞を責める資格はないよな…。
体ではしてなくても、心ん中ではオレもずっと浮気してた。
いや、浮気のレベルじゃねぇな…。
本気だし―。
「100%ないのか?オレの子供である可能性…―」
「…結婚前にね、昔付き合ってた彼氏と再会したの…。ほんの思い出作りのつもりだった…。なのに――」
結婚前…?
「初めて伝えた時…12週目って言ったけど…本当は14週目だったの…」
「そっか…」
疑いもしなかったし、母子手帳も一度も見たことなかったから全然気付かなかったぜ…。
でも…オレの中には怒りも呆れもない。
むしろ少し安堵してるぐらいだ―。
「その元彼に…このこと言ったのか?」
「…うん」
「何て?」
ずっと俯いてた栞が顔を上げ、オレの目を見て話し始めた。
「…ヒカル君と別れたら…結婚してもいいって…」
「ふぅん…。でもさ、子供の親権はオレにあるんだぜ?たとえ産まれる前に別れても―」
「…知ってる」
オレも性格悪いよな…。
素直に譲ってやればいいのに…。
これはずっとオレを騙してきたことへの腹癒せ…かな?
別に腹は立ってねぇけど…。
…たぶん独りに戻ることが寂しいからだ。
別れてもオレの方は塔矢と上手くいくか分かんねーし…。
でも、必ず上手くやってみせる―。
「…いいよ、別れよっか。親権も放棄するよ――」
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