●GOOD BYE 7●
進藤が5ヶ月ぶりに家に来た―。
「すげぇデカいお腹…」
僕のお腹を見てびっくりしている。
「妊婦なんて見慣れてるだろ?」
「まぁ…そうだけど、アイツはまだここまで大きくないから」
「……昨日キミの奥さんに会ったよ」
「…そっか」
「綺麗な人だね。性格も育ちも良さそう」
「…まぁな」
進藤がまるで懐かしむような…少し穏やかな表情をしてきた―。
「じゃあ本題に入ろうか」
「ああ」
「キミは昨日、責任は取るって書いたよね?どう責任取ってくれるのか、話してもらおうじゃないか」
真顔に戻った進藤は、真剣な面持ちで僕の方を見つめてくる―。
「…先に言っておくけど、金銭的な援助は必要ないからな」
「まぁ…オマエには必要ないだろな」
「認知する必要もないから。元々キミには黙って産むつもりだったし」
「何で…言ってくれなかったんだよ」
「気付いた時にはキミはもう奥さんと婚約していたし…」
「オマエが妊娠してるって知ってたら、婚約なんて速攻破棄してた!」
「……」
簡単に言ってくれるな…。
でもその表情から、本気だってことぐらい分かる…。
これでも6年以上の付き合いだ。
一応半年間は恋人だったし―。
「…そのお腹の子は…絶対オレの子なわけ?100%?」
「心外だな。他に誰がいるっていうんだ。僕はキミ以外の人と関係を持ったことは一度もないよ」
「そっか…。なら話は早い――」
「え?」
進藤が僕の両手を手に取り、握り締めてくる―。
「今度こそちゃんと言うよ。オレと…結婚して下さい」
これ以上にない責任の取り方に、僕は耳を疑った。
と同時に怒りが込み上げてきて――
「ふざけるなっ!!キミは既に結婚してるじゃないかっ!」
「だから、今朝別れてきた」
「…は?」
今、何て…―。
「離婚してきた…」
「な、何を言ってるんだキミは…。奥さん妊娠してるんだろう?」
「いいんだ」
「いいわけないだろっ!身勝手すぎるぞ!」
「いいんだって!アイツがそれを望んでんだし!…つーか、アイツのお腹の子は…オレの子供じゃねーし…」
「は…?」
茫然とした僕に、進藤は一から話してくれた。
いきなりのことに、ただ頷くしか出来なかったけど――
「…要するに、栞さんはキミと別れても幸せになれるんだな?」
「うん、半年経ったら正式にその彼と結婚するってさ。学生らしいんだけど…まぁ慰謝料としてオレも少しは払うし、養育費には問題ないだろ」
「何の為の慰謝料?浮気をしたのはあっちだろう?」
「そうだけど…オレは栞を精神的に苦しめたから―」
「精神的に…?」
「うん…。結婚してた間もずっと塔矢のことが好きだったから…」
「……」
そんなことを言われても、どんな表情をすればいいのか分からない。
喜ぶところではないし…
でも怒る場面でもない…よな?
「もっとぶっちゃけちゃうとさ、オレ…アイツを塔矢の代わりにしてたんだ」
「は?それってどういう…」
「つまり、栞をオマエのつもりで抱いてたってこと。最低だろ?ハハ…」
「笑えないよそれ…。本当にキミって最低…―」
「他にどうしようもなかったんだ…。それぐらいオレはオマエが好きだった…」
進藤が僕の肩を抱いて、頬に優しく口付けてくる―。
「…なら別れなければ良かったんだ。別れようと言ってきたのはキミの方だ」
「本当だよな…。オレって本当にバカ…。だからもう絶対に離れねぇ…―」
そう言って、また僕の頬にキスしてきた―。
「な、塔矢。オレと結婚してよ…?子育てだって絶対一人より二人の方が楽しいって―」
「…うん、そうだね。キミはいい父親になってくれそうだもんね」
「任せとけよ。オマエとの子供だったら溺愛するぜっ」
嬉しそうにお腹に触れてきた進藤の手に、僕は優しく重ねてみた―。
本当は一人で産むつもりだった。
一人で育てるつもりだった。
お互いの存在をお互いに教えないまま―。
…だけど、いざこうして幸せそうに僕に触れてくる彼の姿を目の当たりにすると、その考えが間違っていたことを思い知らされる―。
やっぱりすぐに言えば良かったんだ。
そしたら僕も進藤も栞さんも、こんな風に遠回りせずにすんだのに―。
いや、そもそも進藤が僕のことが好きなのに…別れようなんて言い出したのが悪いんだ。
そうだ、絶対に進藤のせいだ。
そういうことにしておこう―。
「塔矢…キスしてもいい?」
「―うん…」
ゆっくりと彼の顔が近付いてきて…唇が重なった―。
キスをしたのはあの別れた12月10日以来―。
キスで終わった僕らの関係が、このキスからまた新たに始まる―。
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