●LOVE FORTUNE 1●


こういうのを『すれ違い』って言うの?

タイミングがお互い悪過ぎ。

でも元凶はオレ達自身にあるんだ。

オレは諦めが早過ぎた。

オマエは自分の気持ちに嘘を吐き過ぎた。

もちろん、縁がなかったと思ってしまえばそれまで。

オレにとっての『運命の人』はオマエじゃなかったのかな…って。


でも、これからどうするのか、一歩踏み出せるのかどうかも…オレ達自身にかかってるんだ――













「アキラ君、今年の誕生日プレゼントは何がいい?」

「マンションをください」

「いいぞ。場所の希望はあるか?」

「やだなぁ緒方さん。冗談ですって」


12月の初め――

偶然塔矢と緒方先生の会話を耳にしてしまった。


冗談?

塔矢が緒方先生に言うと、冗談も冗談に聞こえない。

緒方先生も本当に買ってやるつもりだったのか、それとも流しただけなのか…。

どっちにしろ眉一つ動かさない四冠の余裕ってすげぇ。


「アッキラ〜!もうすぐ誕生日だな!何が欲しい?」

続けてやってきたのが芦原さん。

「アキラ君はマンションが欲しいそうだぞ、芦原」

「え?!」

「も〜、冗談ですって」

「じゃあ本当は何が欲しいんだ?」

「お気持ちだけで充分です」

「俺らが勝手に選ぶぞ?」

「ありがとうございます。あ、でも去年みたいにブランドものの鞄とかやめてくださいね。使い道がありませんから」

「じゃあ今年はアキラ君でも使いそうな小物にするか」

「アキラは機能重視だからなぁ…」


頭を捻る塔矢門下の男性陣。

オレがいる森下門下ではありえない光景だ。

やっぱり女の子が一人いると色々勝手が違ってくるのかな?

去年のバレンタインデーに、塔矢がチョコづくりに追われていた光景をふと思い出してしまった。



「あ、進藤」

オレの存在に気付いた塔矢が近付いてきた。

「暇?これから碁会所で一局打たないか?」

「…いいよ」

オレがOKすると嬉しそうに微笑んでくる塔矢。

少し…胸が熱くなる。


それがオレのコイツに対する想いの証拠――








一緒に囲碁サロンに向かう途中、オレの方も何気なく聞いてみる。


「…あのさ、誕生日…何かやろうか?」

「マンションをくれ」

「………」



オレにまでその冗談かよ…。



「冗談だろ?」

「くれないのか?進藤のケチ」


は…

はぁあ?!

ケチ?!

普通そんなのねだるか?!

てか緒方先生達の時とは態度が違いすぎねぇ??


「…マンションが無理なら…キミの部屋の合鍵をくれ」


は?


「なに…オマエ本当にマジでマンションが欲しかったのか…?」

「ううん…。ただ…ちょっと実家以外で居場所が欲しかっただけ…」

「…ふーん」


そうなんだ…。

でもオレに買ってやれるだけの貯金はないしな…。

だから合鍵?

オレの部屋をその居場所にするつもりか?


「別にいいけど…?」

「本当?」

「うん…」

早速キーチェーンに余分に付けてた部屋の鍵を外して手渡してやった。


「ありがとう。いつ行ってもいい?」

「平日。土日は来んなよな。…彼女が来るから」

「分かった。平日だけだね」

少し悲しそうな顔をした塔矢だけど、すぐに気を取り直して…嬉しそうに鍵を鞄にしまっている。



「…なんで冗談にしたんだよ」

「え?」

「さっき緒方先生にも同じこと言ってたじゃん?そんなに欲しいなら…先生に買ってもらえば良かったのに」

「…緒方さんに頼むぐらいなら自分で買うよ」

「頼む、じゃなくて慰謝料代わりに請求したら?」

「は?」

「婚約が破棄になったのって、どうせ緒方先生の女遊びが原因だろ?」

「……違う」

「じゃあ何で別れたんだよ?」

「………」


理由を知ってて塔矢に問い詰めるオレ。

言えよ。

言ってくれよ。

オレが好きだから…って。

そしたらオレらは…――



「…今日は土曜だね。彼女……来るのか?」

「…たぶんな」

「…そう」


話を変えてくる塔矢から、『彼女』という言葉が出て……オレは一気に現実に引き戻される。

ずるずる付き合って…もう1年。

塔矢と緒方先生の婚約が破談になったのも1年前。

微妙な差だった。

もし破談になった方が早かったなら……オレは間違いなく今の彼女とは付き合っていない。

…でも現実はオレが付き合い始めた方が先。


やっとの思いで塔矢への想いを断ち切ろうとしたのに…


その為に作った彼女だったのに…


何で付き合い出した途端……――




「…月曜日、行ってもいい…?」

「いいけど…」

「火曜日は?」

「…いいけど」

「水曜は?」

「…うん」

「木曜は…僕の誕生日なんだ」

「…知ってる」

「二十歳になるんだよ」

「…そうだな」

「やっと大人の仲間入りをするんだ…。やっと自由…」

「………」


塔矢がオレの腕を組んで…肩に頭を凭れかけてきた。


「誕生日…キミと一緒に迎えてもいい?」

「………」


『迎える』ってことがどういう意味なのか…


塔矢がオレに何を求めてるのか…


そしてその行為が結果的に彼女に対して裏切りになるのか…


ぐちゃぐちゃな頭の中を整理しないまま―――オレは首を縦に振った。




「…いいよ」












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