●FOREIGN TRADE●
「いらっしゃい、佐為さん」
「こんにちは。もう来てる?」
「ええ」
スーツを新調する時、僕はいつも祖父母の家で外商と待ち合わせている。
自分の住んでる所を極力他人に知られたくないからだ。
もちろん担当の人とは祖父の現役時代からの付き合いで、信頼も出来る。
けれどそれなりにベテラン(つまり高齢)なので、まだ20歳の僕の服を作る時には、若い感覚を持った若い外商も一緒に来るからだ。
もちろんずっと祖父母の世話になるわけにはいかないので、今は見極め期間だと思っている。
自分に合う外商を見つける為の――
「王野です。今日はよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします。あまり時間がないのですが」
「かしこまりました」
本当は今日はもう他に用事はないのだけど、僕は敢えていつもそう言うことにしている。
いかに短時間でそれなりの物を用意出来るかも外商の腕だと思ってるからだ。
「春用とのことでしたので素材は…」
色目は。
デザインは。
採寸後に細かいことを決めていく。
ほとんど外商任せで僕は
「じゃあそれで」
と返すだけだ。
15分もすれば粗方決まったことに、僕は少し驚きを隠せなかった。
(この人若いのに凄いな…)
聞けば今30歳だという。
大卒後に入社し、販売の経験を7年積んだ後に今の外商部に移ってきたらしい。
知識の豊富さもちろんだけど、何より決断力が凄まじい。
且つ――販売能力もかなり高い。
「ワイシャツはどうされますか?スーツのお色に合うものを各々ご用意させていただいても?」
「そうですね……お願いします」
僕はいつも一着だけ頼むということはしない。
複数着まとめて。
付属するコートやワイシャツ、ネクタイ、ベルト、靴等も勧められれば購入することにしている。
もちろん勧められなければ買わない。
顧客の要望の物だけを用意するのか、それ以上の物を準備するのかは売る側の自由だ。
この短時間でどれだけプレゼン出来るかも外商の力量だろう。
(この人のプレゼン能力はかなり高いな…。よく勉強している)
そしてこちらの懐事情もよく分かっているのだろう。
棋士は個人事業主だ。
そして僕の場合、収入の半分は税金へと消える。
対局時のスーツ代諸々は経費なので、僕にとっては所詮、国に納めるか百貨店に支払うかの違いということだ。
「佐為さん、お疲れ様」
外商が帰った後、祖母がお茶を淹れてくれる。
「どうだった?今回の人は」
「……悪くないね」
「あら、じゃあ次頼む時も同じ人を連れて来て貰う?」
「そうだね……そうしようかな」
祖母とこの会話をした時、僕は20歳だった。
以来、スーツを新調する時は祖父母担当の外商プラス、さっきの彼も呼んで貰うことにした。
そして2年後には、自宅に彼を呼ぶようになっていた。
もちろん自身の担当外商としてだ。
22歳になった僕にはまもなく転機が訪れようとしている。
いつも通りの採寸中、僕は彼に一つの注文を出すことにした。
「実は結婚しようと思ってるんですが…」
「それは…おめでとうございます!」
「ありがとう。それで、婚約指輪の候補をいくつか見繕ってほしくて…」
「かしこまりました」
採寸の後、細かい要望を伝える。
きっとこの彼なら精菜が気に入ってくれる指輪を探し出してくれることだろう。
正式に結婚が決まったら、彼にも紹介しようと思う。
精菜を妻として――
―END―
以上、外商のお話でした〜。
原作で塔矢家は外商を使ってたので、きっと佐為も使うはずだと書き始めてみました(笑)
まぁ有名になりすぎて引きこもり気味の佐為にとっては家で買い物が出来る外商は有難い存在ですよね。
ちなみにヒカアキは使ってません〜。
ヒカルはもともと買い物好きだし、自分で新しいショップを開拓するのも楽しんでるかと。
アキラは独身時代は明子さんに言われるがままスーツとか私服とかお願いしてたけど、結婚後は自分で買いに行くようになった感じかな。
でも両親が外商を使ってるそのデパートに行った時は、担当の外商さんに付けてあげる優しいアキラさんです。
結婚後は家のことは精菜が仕切るわけなので、佐為の服ももちろん自ら買いに行くわけですが、スーツとか和服とかは引き続き外商にお願いする感じでしょうか。
まぁ結婚、出産というイベントが待ち構えている若夫婦にとっては、外商というのは内祝いとか作法系のプロなので、心強いのではないでしょうか。
まぁ百貨店側からしたら、佐為なんて継続的な利用が見込めるいいお客様だよね〜w
佐為の外商の座にありついた王野さんはラッキーだね!
王野「ちなみにご予算はどのくらいでしょうか?」
佐為「んー……500万くらいかな?1千万を超えたらさすがに後々彼女に怒られそうなので…そのくらいで」
王野「か、かしこまりました…」
王野さん(32)は内心は
(マジか!さすが進藤名人…500万でも名人にとったら1ヶ月分の給料より少ないんだろうなぁ…すごいなぁ)
と年相応なことを思ってるのですよ。※この年の佐為の年収は1億くらいです。
もちろん500万の指輪なんて自身の百貨店にはほとんど置いてないので、その後各ブランドの東京本店を回ることになる王野さんなのでした。
でもっていくつか候補を見繕って、最終的には佐為に選んでもらったのですよ。
そんなエンゲージリング裏話です。
もちろん外商なんて使わずに自分の足で買いに行けたら一番なんですが。
困ってる佐為の裏話はこちらから(笑)↓↓
おまけ