●FOREIGN TRADE おまけ●
22歳になったクリスマスはもちろん一日精菜と過ごした。
思いきって少しだけ一緒に出かけてみた。
もちろん眼鏡とマスクは必須だけど。
彼女にも少しばかり変装してもらったけど。
「……あ」
精菜の足がショッピングセンターの、とあるお店の前で立ち止まる。
単なる旅行会社だったのだが、彼女が目に止めたのは旅行のパンフではない。
その前に置かれていたマネキンだ。
海外挙式をイメージさせるウェディングドレスを身に纏った――
「…綺麗…」
そう一言だけ呟いて、彼女はまた足早に歩き出した。
僕も彼女に付いて行きながらも、もう一度振り返る。
(いよいよなんだよなぁ…)
次の2月で精菜は20歳になる。
初めて夜を共にした翌朝、彼女は言った。
結婚を『ハタチくらいでもいいかな…』と。
『ハタチね、分かった』
『…何?本当にハタチにプロポーズしてくれるの?』
『それはなってからのお楽しみだよ』
あの時の会話を忘れたことはない。
なってからのお楽しみだと勿体つけたけど、もちろん僕は有言実行するつもりだ。
一緒にエスカレーターで階を移動していると、今度は僕の方がとあるショップに目が釘付けになる。
それはもちろん――ジュエリーショップ。
プロポーズするにはもちろん指輪は必須だからだ。
チラリと精菜の左手を見る。
彼女がまだ小学5年生だった時に贈った指輪を、今でも毎日のようにハメてくれている。
大事にしてくれてる分、早くエンゲージリングと入れ換えてあげたい気持ちが強くなる気がした。
(でも、どこで買おう…)
銀座にでも行けば、確かに有名どころのジュエリーショップが名を連ねている。
でも僕にはそれらの店に行く勇気がなかった。
もし僕が普通の棋士なら、迷うことなく直ぐにでも愛する彼女の為に足を運べたことだろう。
でも僕は……残念ながら普通の棋士ではない気がするのだ。
その証拠が――これだ。
ショッピングセンターを出て、駅に向かうアーケードに入ると、ずらりと液晶の広告パネルが等間隔に並ぶ。
エンドレスに流れているCM――そこに映っていたのは間違いなく自分の姿だった。
「あ、佐為のCM♪」
精菜も気付いて、僕にふふふと笑いかけてきた。
「佐為ってば本格的に芸能人路線だね」
「はは…」
ついにCMにまで出てしまった僕の世間の扱いは、精菜の言う通り既に芸能人と同格だ。
そんな僕がその辺のお店を訪れたらどうなるのか……考えただけでも恐ろしい。
(絶対にSNSで拡散とかされそうだ……)
かと言って数百万の買い物をネットでするわけにはいかない。
やっぱり一生に一度のモノだし、ちゃんと実物を見て吟味して決めたい。
どうしようかな……
やっぱり王野さんに助けて貰おうかな……
そう思った僕は、翌日精菜が帰るとすぐに彼にアポの電話をすることにした――
―END―
指輪一つ買うにしても大変な佐為ということで〜(笑)