●FIRST-STAGE 7●
「進藤、若獅子戦の組合せ表見た?」
「いや、まだだけど…」
5月最初の金曜日。
GWの真っ最中に西条が家に遊びに(打ちに)来た。
昨日手合いで棋院に行っていた彼は、手合課でちゃっかりそのトーナメント表をゲットしてきたらしい。
僕の分も貰ってきてくれたらしく、1枚くれる。
「一回戦は院生となんよな。進藤は去年のプロ試験でほとんどの子と手合わせしとんやろ?」
「新しく入った子や、B組から上がった子を除けばね」
「じゃあ俺の相手の柳って子は知っとう?」
「…柳さんは今の院生1位だよ」
「マジで?てことはかなり強いん?」
「かなりね…」
「うわぁ…ヤバいな」
ちなみに僕の相手は今の院生3位の相川さん。
去年のプロ試験本戦で初戦で戦った高校1年生だ。
(結局奇跡は起きなくてプロ試験に落ちたから高校に進学したらしい)
「彩は院生6位の美輪さんか…。精菜は……………」
「どしたん?緒方さん誰と?」
西条もトーナメント表で精菜の相手を確認する。
「あらら」
精菜の対局相手は院生13位――海王中の内海さくらだ。
「因縁やなぁ」と西条が苦笑する。
「緒方さん、マジモードでいくやろな」
「…たぶんね」
「女は恐いなぁ〜」
「…金森さんは誰とだよ?」
「奈央は盛本君やって。知っとう?」
「うん。盛本五段の息子さんだよ」
「へー」
若獅子戦は五段以下かつ23歳以下のプロ棋士16名と、院生16名の計32名で行われるトーナメント。
来週の土曜日に一回戦と二回戦が行われ、まずは8名にまで絞り込まれる。
そして翌土曜日に準々決勝以上が行われ、優勝者が決まる。
母は過去4回出てるが、全て優勝したらしい。
僕も優勝を目指して頑張ろうと思う。
「西条は去年は結局どうだったんだっけ?」
「ベスト8止まりやね。準々決勝で窪田さんとあたってもたけんな」
「なるほどね…」
「進藤、窪田さんと打ってみたいんやろ?」
「まぁね。そりゃあね」
「今年は窪田さんはもう新人王戦にも出てこんけんなぁ。本因坊リーグも残留してもたし。ま、勝ち上がっていったらいつかは機会あるんとちゃう?」
「そうだね…頑張るよ」
窪田七段とももちろん戦ってみたいけれど。
それより今は目先の一戦だ。
まずは院生3位の相川さんとの対局。
プロ試験の時と同様、中押し勝ちを目指したい。
「おはよう佐為、彩」
「おはよう精菜」
「おはよ〜」
5月12日――若獅子戦当日。
プロ試験の時と同様、僕は精菜と駅で待ち合わせて3人で棋院に行くことにした。
今日は2階のAホールで行われる為、階段を使って会場まで移動してみる。
「佐為は相川さんとなんだよね」
「うん。楽しみだよ」
「私は内海さんとだよ。ふふふふ」
意味深に精菜が笑う。
恐らく瞬殺する気満々なんだろう。
ちなみに彩は2階の踊り場まで来ると何故か顔を真っ赤にして、「京田さん…vv」と呟いて恋する乙女の顔になっていた。
「俺がどうかした?」
と後ろから京田さんが登場。
ビックリした彩は階段を一気に駆け上がって逃げ出した。
京田さんが頬を掻いている。
「おはようございます、京田さん」
「うん、おはよう進藤君」
「京田さんは一回戦誰とですか?」
「林さん。今は院生5位らしいね。進藤君は相川とだろ?」
「はい」
京田さんと共にAホールに到着すると、プロ試験の時の見知った顔がたくさんあって、少しだけ懐かしくなった。
「柳、久しぶり」
と京田さんが柳さんに近付く。
「京田君久しぶり。週刊碁見たよ。先週古野三段に勝ってたね」
「なんとかな」
「進藤君も久しぶり」
と柳さんが僕にも声をかけてくれる。
「お久しぶりです、柳さん」
「予想通り絶好調みたいだね。今のところ全勝でしょ?」
「まだ三局しか打ってませんけどね…」
「はは。そういえば今日の僕の相手の西条三段って海王中らしいね。進藤君知ってる?」
「ええ」
会場をぐるっと見渡して西条の姿を探す。
いた――案の定、金森さんと一緒に。
「西条!」
と少し叫んで、手招きする。
「おはようさん、進藤」
「おはよう。西条、今日のお前の対戦相手の柳さん」
「あ、よろしくお願いします」
西条がペコリと頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします」
と柳さんも腰引く返す。
「院生1位なんやってね」
「まぁ…一応。進藤さんも京田君も抜けたからね」
「ほな今年こそ合格やね」
「はは…頑張ります」
まもなく立会人の藤田九段や棋院スタッフが入ってきて、各々席に移動するよう促される。
僕も自分の席に着く。
「進藤君、おはよう」
「おはようございます相川さん」
『互先ですが院生が黒を持ちます。では、始めて下さい』
一斉に全員が頭を下げる。
「「お願いします」」
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