●FIRST-STAGE 10●





「お父さん、何時の飛行機?」

「10時過ぎ。帰って来るの木曜になるから、家のことよろしくな」

「うん」



翌月曜日。

明日からいよいよ始まる本因坊戦挑戦手合七番勝負・第一局。

それに向けて両親は今日が移動日となるため、朝からバタバタ準備していた。

朝食を食べながらさっきから両親の様子を目で追ってるけど、二人とも会話はなし。

早から戦闘モードだ。



「じゃあ行ってきます」

「行ってきまーす」

「「行ってらっしゃい」」は見事にハモっていたけれど。

彩と共に学校に向かって出発した。



「お父さんとお母さん、どっちがタイトル取ると思う?」

「賭けるか?」

「やだよ。お小遣いなくなっちゃうもん」

「彩はマンガに使い過ぎなんだよ」

「いいじゃん別にー」

「ま、タイトルはどっちが取ってもいいよ。家庭内が平和なら」

「あはは。確かに〜」



今日これから山口に向かう両親。

今回の本因坊戦はスケジュールがタイトで、前半はほぼ毎週対局がある。

来週は京都、そして函館、大阪、長野、福岡、三重とまたどちらかが4勝するまで戦い続ける。

おそらく名人戦の時のように勝ったり負けたりを繰り返すだろうから、決着するのは7月だろう。

夏休みも目前だ。



「今日からまたお兄ちゃんの作るご飯かぁ…」

「文句あるならコンビニ弁当にするぞ」

「えー…せめて外食にしようよ〜」


駅を降りたところで精菜が「おはよ」と声をかけてくる。

「おはよう精菜」

「おはよ〜。精菜聞いてよ〜お兄ちゃんが夕飯コンビニのお弁当にするって言うんだよ〜。ヒドくない?」

彩が精菜に告げ口する。

「おじさん達本因坊戦ついに始まるんだね。確かにご飯に困るよね」

「精菜また作りに来てよ〜」

「いいよ」

「ホント?!」


彩がパアァと急に笑顔になる。

もちろん僕も。


「佐為、作りにお邪魔してもいい?」

「も、もちろん。精菜がいいなら」

「いいよー。何食べたい?」

「何でもいいよ」

「え〜それが一番困るんだけど」


僕と精菜の会話を聞いて、彩が「ラブラブだねぇ…いいなぁ」と呟いた。


「じゃあ彩も京田さん誘ってみたら?」と精菜が提案する。

「え!きょ、京田さん?!無理無理無理…絶対来てくれないよ!」

彩が挙動不審気味に慌てている。


「佐為、京田さんに連絡してあげたら?」

「何て?」

「んー、合宿しませんか?とか」

「合宿?京田さんを家に泊めるってこと?」

「うん、いいじゃない。若獅子戦4人ともベスト8に入ったし。次の準々決勝に向けて特訓しましょう!って佐為が誘ったら絶対来ると思うよ」

「じゃあ…連絡してみるか」


直ぐ様携帯を取り出してメールしてみる。

すぐに「了解」と返信が来る。

相変わらず返事が早い人だと感心する。


「彩、京田さん来るって」

「ええ?!」

「じゃ、彩、一緒に夕飯作り頑張ろうね♪」

「ええ?!私も作るの?!」

「そりゃそうだよ〜。京田さんをの胃袋を掴まなくちゃ♪」

「ええー…」


彩も作ると聞いて少し心配になった。

生まれてこの方、彩が台所に立ったところを一度も見たことがないからだ。

(カップ麺とかは別にして)

胃薬買って帰ろうかな…とか密かに考えてる僕がいた。











「へー、合宿するんや?」

「何故かそういうことにね」


学校に着くなり西条にも話してみた。


「面白そうやなぁ」

「じゃあ西条も来る?」

「あー…やめとくわ。お邪魔虫やし」

「別に邪魔じゃないと思うけど?」

「いやいやいや、その流れからしたら、彩ちゃんが好きなのって京田さんなんやろ?2カップルで俺だけ余るん嫌やもん」

「よく分かったな、彩の好きな人」

相変わらず鋭い奴だと感心する。


「分かるわ。若獅子戦の時やって、彩ちゃんずっと京田さんの方見よったし」

「そうなんだ?ま、京田さんは彩に全く興味ないみたいだけどね」

「そうなんかなぁ?全然脈無しには見えんかったけどな」

「ふーん?」


まぁ京田さんなら彩を託しても別にいいか、と僕は思う。

(父は知らないけど)

京田さんが父の弟子になって半年近くなるけど、彼の性格や考え方、囲碁に対する姿勢、どれも悪くないからだ。

第一印象があまり良くなかった分、今は僕の中でかなりプラスな人だ。

僕より囲碁に対してかなりストイックな点も評価出来る。

さすが師匠なしで3年半でプロ試験を受かっただけのことはある。



「まぁ明日どうだったか感想聞かせてよ」

「分かった」











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