●FIRST-STAGE 1●





3月24日――棋院で合同表彰式が行われた。


パシャパシャパシャパシャ…と永遠と続くフラッシュに、僕は(目がチカチカしてきた…)と内心思いながらも、ポーカーフェイスでカメラに笑顔を向け続けた。

カメラマン達のお目当ては二世ツーショット。

僕は最優秀棋士賞及び国際賞を授賞した父、進藤ヒカルと並んで。

彩は優秀棋士賞及び女流賞を授賞した母、塔矢アキラと並んで。

精菜は同じく優秀棋士賞を授賞した彼女の父、緒方精次と並んで。


「最後に4人一緒にお願いします」

とリクエストされて、両親、僕、彩の棋士一家写真も撮られた。









「安定の人気っぷりだね、進藤君」

ようやく式典のスタート間際になって解放されたところで、京田さんが近付いてきた。

「おはようございます、京田さん」

「おはよう。去年までとは報道陣の桁が違うらしいね」

「そうなんですか?」

「7割は進藤君目当てらしいよ」

「…はは」



毎年3月末に開かれる合同表彰式。

父が授賞した最優秀棋士賞他、新人賞や最多勝利賞、連勝賞などの棋道賞の表彰をメインに開かれる。

新入段棋士の免状授与式は、いつもはおまけみたいなものらしいが、京田さん曰く、今年はむしろそれがこの馬鹿多い報道陣の一番のお目当てらしい。

公式の写真撮影が終わってもさっきから盗撮のようにカシャカシャ鳴るシャッター音。

カメラに追い回される芸能人の気持ちが少しだけ分かった気がした。




「京田君」

「あ、おはようございます窪田さん」



(――!!)



京田さんの肩を叩いたのは、本日新人賞、勝率第1位賞、最多対局賞の3つを授賞した――窪田七段。

19歳。

今の囲碁界若手棋士ナンバー1だ。


「京田君、進藤君と仲いいんだ?」

「同じ門下なので」

「紹介してよ」


窪田七段が僕を見てヒュウと口笛を鳴らしてくる。


「噂通りのイケメンだねぇ。初めまして、窪田大です」

「初めまして。進藤佐為です」

「よろしく」

「こちらこそ」

「中学生だっけ?」

「この春から中2です」

「へぇ〜落ち着いてるね」


すぐに「窪田先生、間もなく呼ばれます」とスタッフに呼ばれて、窪田七段は「じゃあまたね」と前の方に行ってしまった。



壇上ではちょうど父がスピーチ中だった。

昨年本因坊戦、NHK杯、TVアジア、早碁オープンを制した父。

昨年の振り返りとお礼、そして今年の抱負を誓う。

あんな壇上で、会場中の視線を一身に受けても物ともせずに、堂々と喋り続ける。

いつもの家でのヘラヘラした父と全く違う。



これが――プロ。



続いて母が表彰される。

母もこれまた慣れたもので、更に会場中を魅了する話法でスピーチし始めた。


(すごいな…)


これが――僕が今日から生きていくプロ棋士の世界。

ただ自分の為に打つだけじゃない、支えてくれる、応援してくれる人の期待を背負って、それに応えていかなければならないプロ。

緊張する。

と同時に身震いがした。


(楽しみだ…)









式典の最後を飾るのが僕ら新入段棋士が主役の免状授与式。

プロ試験一位通過の僕が一番最初に名前を呼ばれる。


「進藤佐為」

その後に

「進藤ヒカル九段門下」

と紹介される。


パシャパシャとまた鳴り始めるシャッター音。


理事長から免状が渡され、僕は正式に日本棋院のプロ棋士となった――













「佐為♪」


式典の終了後、僕ら新人棋士は会議室に移動して、研修会を受けることになった。

僕の横の席に精菜が座ってくる。


「緊張したね。私理事長に会ったの初めて」

「僕もだよ」


事務スタッフから渡された書類にパラパラと目を通す。

既に日程が決定している4〜5月の対局予定一覧が載っている紙も挟んであった。

自分の名前を探す――――あった。


僕の初戦は4月5日。

王座戦、予選C。

相手は河西三段。


「佐為の初戦、王座戦?」

「みたいだね…。精菜は?」

「私は天元戦。高野四段とだって」

「いつ?」

「4月12日。一緒じゃないね、残念」

「そうだね」


母がタイトルを保持する王座戦。

一年かけて予選が行われ、更に半年かけて本戦が行われる。

もちろん勝ちまくればいつかは母にたどり着く。


「佐為、楽しみだね」

「うん――」




まずは初戦。

全力で戦おうと決心した――











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