●FIRST EVENT 1●




合コンで初めて会った時の第一印象は――

『普通の今時の綺麗なお姉さん』


鞄と財布はディオール。

時計はカルティエ。

車はベンツのEクラス。

おまけに高層マンションの上の方の3LDKに一人暮らし……なんて聞いた暁には、どっかのお嬢様か?!

もしくはホステス?!

それか男に貢がせまくってんのか?!

…と一瞬で色々なパターンが頭を過ぎった。


でも……どれも違うらしい。

職業は大手銀行の窓口。

普通に働いてて、彼氏だってここ数年いない…とか。


「今は彼氏なんかいらないのよね〜」

と言った言葉が妙に気になった。


「じゃあ何で合コンなんかに来てんの?」

「んー、気晴らしかな」

「ふーん」


どことなく謎のある彼女の秘密を暴いてみたくなった。

それがオレが彼女に近付いた理由。



――でも秘密は秘密のままにしておいた方がいいことだってあるってことを…後で思い知らされることになる――













「ヒカル、どう?」

「お、可愛いじゃん」

付き合い始めて約半年。

お盆休みに入ったオレが久々に彼女の家を訪れると、浴衣姿を披露してくれた。


「今度の花火大会用?」

「ううん、明日のイベント用。今年は内スタッフ全員で浴衣でいこうと思ってるんだ♪」

「イベント…」

その単語に思わずガックリと肩を落としてしまった。


…イベントとは明日から有明で開催されるオタクイベントのことだ。

当然のように毎回サークル参加して、自費出版した本を売りまくってる彼女。

その本の内容は口に出すのも悍ましいほど、男同士がラブラブいちゃいちゃエロエロしてる内容だ。


――そう

彼女はオタクだったんだ!!


神秘に包まれた彼女の秘密が、実はただのホモエロ作家だったなんて……泣けてくる。




「な、もう原稿終わって暇なんだろ?どっかに遊びに行かねぇ?」

そう誘うと信じられないものを見たかのような顔をされた。


「何言ってんの?これから前日搬入に行くんだから、無理に決まってんじゃん」

「前日…搬入…?」

「明日すぐに売れるように体制を整えに行くのよ!大変なんだから!」

「え…今までのイベントはそんなのなかったじゃん」

「夏と冬は特別なの。あーあ、今回は販売停止の札貼られないように気をつけなくちゃ…」

「て、手伝おうか?」

「人数そろってるから大丈夫よ。それに慣れてないヒカルが来たって邪魔なだけ」

「そっか…」

頼りにされるどころか邪魔扱いされてガックリしてると、仕事部屋のドアがガチャッと開く音がした―。


「…やっと新刊情報アップ出来たー…」

「憂莉、お疲れ!」

彼女がすぐにそのスタッフ長に抱き付いた。

――そう

その部屋からふらふらしながら出て来た女性は、彼女のサークルスタッフの中で一番偉い…芸能人で言えばマネージャー、マンガ家とかで言えば担当みたいな役割の人だ。

彼女がマンガを描くことのみに集中出来るのも、このスタッフ長さんが通販処理含む全ての庶務を承ってくれるから、らしい。


「じゃあ新刊セットは新刊3冊に紙袋、うちわね。今日中に1000セットは作っておかないと明日がキツそう…」

「あ、ペーパーももうちょっとで出来るからそれも入れて〜」

「コピーは自分でしてよ?」

「はーい。キンコーズ行って来まーす」



浴衣から私服に着替えた彼女は、取りあえずの身支度をし始め出した。


「え?お前…泊まり?」

「当然。スタッフ全員で今日・明日は会場前のホテルよ」

「へぇ…。いつ帰って来んの?」

「明々後日かな。明後日一般参加した後でオンリーの主催・協賛サークル全員で飲み会するしね〜。楽しみ!」

「飲み会じゃなくて企画の打ち合わせ」

「はーい、分かってまーす」


自らオンリーイベントまで開いてしまう彼女。

この夏はチラシを配りまくるんだ!ってかなり張り切ってる。

企画とか打ち合わせとか飲み会とか…聞いてるだけですげぇ楽しそう。

オレもイベントとかお祭りごとは大好きな方だから、そういうところはオレらって似てるのかもしれない。


…にしても明日のオタクイベント。

一体どういうものなのかすげぇ気になる。

オレもちょっと覗いてみよっかな…。




「てことで!和谷お願いっ!この通り!」

「絶対に嫌だ!」

一人でオタクイベントに乗り込む勇気なんかなかったオレは、彼女を見送った後に和谷ん家に行って、一緒に行ってくれるよう早速頼んでみた。

当然拒否られちまったけど――


「塔矢でも連れて行けば?」

「アイツをんなとこに連れて行けるわけないじゃん!」

「何だよ、俺ならいいわけ?」

「うん!」

「………」

和谷が横目で睨んでくる―。


ごめん…。

だってイベントにはオレの彼女がいるんだもん。

せっかくだから彼女がどういう風に売ってんのとか見てみたいし…。

でも塔矢と彼女を会わせたくないって言うか…。

まるで本命と浮気相手が対面するみたいな気分になりそうだし…。

あ、もちろん塔矢の方が本命な。



「和谷、一生のお願い!オレの彼女一度見てみたいって前に言ってたじゃん?来てくれたら会わしてやるから!」

「まぁ…確かにお前がどんな奴と付き合ってんのか興味はあるけどさぁ…」

「じゃあ行こうぜ!イベントじゃなくて、アイツの働く姿を見に!」

「悲しい彼氏だな…お前」

「へへ〜」


何とか承諾してくれた和谷を連れて、明日無事に乗り込むことになった。

有明は一度車の展示会を見に行ったきりだけど、あの時は東1・2ホールだけだったよな。

彼女の話によると、明日は東も西も全部使うらしい。

来る人も一日で20万人を越すとか…。

いくら広いとは言え、建物は悪魔で建物だよな。

一体どうやって20万人もの人が入るんだ…?

謎だ…。















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