●FIRST EVENT 2●



「げっ!なんだここ!」


イベント当日――

昼過ぎにゆりかもめで会場に到着すると、異様な人の数が目に入って来た。


「進藤…、やっぱ帰ろうぜ…。俺らものすごく場違いな気がする…」

「ここまで来て何言ってんだよ!郷に入っては郷に従えって言うじゃん?オレらもオタクの振りしときゃあいいんだよ」

「でもここにいる男…何か全員デカい鞄持ってねぇ?俺ら手ぶらな時点でもうおかしいって」

「確かに…言われてみれば…」

「買う気ゼロってバレバレだな」

「い、いいんだよ!本当に買う気なんてねーし!ただの見学!社会勉強!ほら、さっさと行こうぜ!」


取りあえず彼女のスペースのある東6を目指してみる。

いきなり押しかけたら怒られそうだから、先に電話しようと思ったんだけど……全然繋らない。

発信音すらない。

電波悪過ぎ。

どうなってんだ?






「で?東6ホールに着いたけど…、どこにお前の彼女がいるんだよ」

「えーっとな、スペースナンバーがシの30のabとか言ってたけど…」

「は?シ?」

「ここがトだって。こっちがナだから反対側だな」

「…ていうか、この辺女しかいないんですけど…」

「だってアイツの書いてる話、思いっきり男同士のエロラブだもん。書くのも売るのも買うのも女だけだろ」

「……帰る」

Uターンし出した和谷の腕を掴んで、無理やりシまで連れて行った。



「へぇ…この壁側がシなんだな。和谷、30ってどこだと思う?」

「俺が知るかよ!」

「番号も大きく書といてくれなきゃ分かんねぇぜ…。あ、すみません」

適当に擦れ違いそうになったお姉さんに声をかけた。

分からなかったら人に聞くのが一番だ。


「シの30のabってどこだか分かりますか?」

「シの30?ああ…TEARSですね。今ここですから、あっちのあの柱の手前です」

「ありがとうございまーす」

「いいえ〜」


配置図を使って丁寧に説明してくれたお姉さんに、笑顔でお礼を言ってみた。

だけどお姉さんは笑い返してくれながらも首を傾げてくる。

でも何故だかはすぐに分かった。

シの30の場所には間違いなく彼女の絵の巨大なポスターが。

正真正銘の女性向け18禁サークル。

たぶん男(オタク含む)は一生縁がない世界だと思われる…。





「すんげぇ列だな…。で?どの子が彼女?」

「えっと…」

横に回って売り場の中を覗いた。

売ってるのが4人。

補充してんのが2人……あ、片方はスタッフ長さんだ。


「…あれ?いない…」

と口にしたのとほぼ同時に、誰かに後ろから腕を掴まれた―。


「ちょっと何でここにいんのよ!」

「あ、春霞」

「え?この子?」

「うん」

和谷が彼女をジロジロ見出す。


「全然オタクに見えねぇな…」

「だろ〜?」

「そこにいたら邪魔。退いて」

彼女がオレらを押し退けてスペースに入って行った。


「ただいま〜。挨拶回り終わったよ〜」

「遅い!一体何十分かかってんのよ!」

「だって今日しか会えない友達のスペース全部回ってたんだもーん。見てよ、これ砂夕んとこの新刊セット。何でこんなに分厚い本がいっぱい出せるんだろ。いいなぁ…」

「砂夕さんは同人作家だからよ。アンタも仕事辞めてこれだけに専念すれば出せるわよ」

「んなことしたら親に泣かれる…」

「あ、そこの椅子の上の全部スケブだから。書き終わるまで外出禁止ね」

「…はーい」

彼女が壁際の椅子に座ってスケブとやらに絵を書き始めたので、オレらもそっちに移動してみた。


「な、お前は売らないの?銀行員なんだから一番手慣れてんじゃねぇ?」

「内スタッフは6人とも販売のプロだから大丈夫」

「内スタッフって…何?」

「スペース内に入ってるスタッフのことよ。で、外の列を整理してくれてるのが外周スタッフ」

「ふーん…」

話をしながらも物凄い勢いで絵を書いていく彼女。

サインもどっかの芸能人やプロのスポーツ選手並に手慣れてる。


「春霞ー、差し入れー」

「あ、はーい」

オレと話してる時より100倍可愛い顔と声で、その差し入れ人ときゃあきゃあ話しだした。

再び椅子に戻って来た彼女は物凄い笑顔だ。

「えへへ、クッキーもらっちゃった♪朝から何も食べてなかったのよね〜」

早速包みを開けて食べ始める彼女。

「オレも食べていい?」

「だーめ」

「ちぇっ、ケチ!」

「ウルサいわねぇ…。暇なんだったらそこに積んである段ボール潰して捨てて来てよ」

「えー…面倒くせぇ」

嫌だと言いたかったが、彼女は再びお客に呼ばれて売り場の方に行ってしまったので、しぶしぶ和谷と段ボールを片付けることにした。



「お前さぁ…、何かすげぇ女と付き合ってんだな。彼氏って言うか下僕に近くね?」

「オレ5つも下だからさ、反論なんて出来ねぇんだよ」

「え?!てことはあの人24?!伊角さんより上?!見えねぇ…」

「もう誕生日来てるから25」

「マジかよ…」

「マジです」


潰しながらも彼女の様子を伺ってみる。

相変わらず差し入れのお客と楽しそうに話しまくってる。

終わったらまた絵を書いて…

んでまた呼び出される。

確かに自ら売る余裕なんてなさそうだ。


10時に始まって…もう3時間も経ってるのに、相変わらずすごい列。

4列で売ってんのにまだ20メートル近く並んでるように見える。

売ってる4人はすげぇ暑そう。

まだ曇りだからマシだけど、これでもし快晴だったら絶対浴衣は失敗だよな。

にしてもスタッフ全員…オタクに見えねぇな。

実はオタクじゃないとか?

いやいやいや、普通の人がこんな所に来るもんか。



「よし、段ボール潰し終了!捨てて来るか」

「どこに?」

「ここに来る途中にデカいゴミ箱あったじゃん?たぶんそこ」

「ああ…そういやあった気がするな」

「あ、ありがとう進藤さん」

段ボールを抱えてスペースを出ようとすると、スタッフ長さんに声をかけられた。


「段ボールまでなかなか手が回らなくて…、助かったわ」

「いえ、春霞にオレらもう帰るからって伝えておいて下さい」

「ええ」

「じゃあ残り3時間頑張って下さい」

「ありがとう」

知的で頭の良さそうなスタッフ長さんに見送られて、オレらはスペースを後にした―。


「今の人は…何歳?」

「彼女と同い年だって。たぶんスタッフ全員同じくらいだと思うけど…」

「へー」



段ボールを捨て終わった後、興味本意で会場をウロウロしてみた。

「あ、このマンガ知ってる。前テレビで見た」

「へー。オレは最近マンガとか全然読んでねーからサッパリ分かんねぇ…」

「彼女の部屋に単行本ないのか?」

「いっぱいあるけどさ…、前一度パラ見してたら彼女にそのマンガについて語られまくっちまって、2時間は離してくれなかったんだよなぁ…。だかそれ以来触ってない」

「うわー…全然見えねぇけどホントにオタクなんだな」

「もう付いていけねぇよ…」


でもこの会場にいる女の人を見る限りでも、いかにもオタク!って人はほんの一握りだ。

普通の人が大半。

全然見えない人も多い。

でも男の方は………いかにもって奴しかいねぇ…。


「…やっぱりオレらめちゃくちゃ浮いてる気がするな…」

「だろ?!分かったらもう帰ろうぜ!進藤!」

「ああ…」


人の波に押されながらも何とか駅に付いたオレら。

来た道順を逆戻りしながら、今日見た光景を思い出してみる。


彼女のスペース辺りにいた女の人って…皆ホモが好きなのかな…?

そうなんだろうな。

アイドルとか普通の奴も無理やり仕立てるぐらいだし。

彼女だって、アイツの好きなマンガにはちゃんとヒロインも出てくるけど…見て見ぬ振りだ。


何か……嬉しい。


確かに一部の人だけだけど…、それでも、同性を好きになることを当たり前のように考えてくれる人がいるってことが――

もちろんオレの柄じゃないから、たぶんもう二度とイベントには行かないと思う。

でも理解者が世間にはいっぱいちるんだ!って思うと―――この行き場のない気持ちが救われる。



オレは塔矢が好きだ。

男のオマエが好きだ。




だけどオレ達が結ばれるのはまだ先の話――















―END―
















以上、初イベント話でした〜。意味不明なまま完、デス。
うーん…懐かしい。
私の初イベントもビックサイトでした。コミケではなかったですが…。
でもヒカル達と違うのは、私の場合事前にイベントの知識があったってことかな?(笑)
イベントは大好きです!!
でも最近はめっきり大阪のインテなので、またビックサイトも行きたいな〜。出来たら来年の春コミあたりに…。

さてヒカルの彼女。
オタクです。大手のホモエロ作家です(笑)
どんな設定・どんなサークルだよ!…というツッコミはなしの方向で。
世の中にはこういう人もいるんです。と思っていただければ(笑)
にしてもこんな彼女を持ったら大変ですよねー。
でも比較的ヒカルは何でも受け入れやすい体質みたいなので……大丈夫かな?
ちなみに裏設定で、ヒカルにフラれた後、彼女は仕事を辞めて同人一本になります(笑)
ヒカルにはめちゃくちゃ冷たかった彼女ですが、彼女なりにヒカルのことを思ってたのかな?やっぱりショックだったのかな〜?…なんて。
……て、そんなヒカルの恋事情はどうでもいいですね。
このサイトはヒカアキ!ですからね!(笑)