●2nd FEMALE 2●


それからの進藤はますます優しくなった。

棋院に行く時も必ず迎えに来てくれるし、荷物も持ってくれて、1日中細かなリードをしてくれる。

別にそこまでしなくてもいいのに…。

何も知らない周りから見たら、異常なほど彼女に尽くす彼氏の図、だ。

それはそれで恥ずかしい…。


「お、進藤じゃん」

「和谷もここで昼メシ?」

「あぁ」

昼休みにレストランで進藤と食事をしてたら和谷君が声をかけてきて、進藤の隣りに座った。

「そういえばお前って塔矢に弱みでも握られてんのか?」

「は?何だよそれ」

「皆言ってるぜ。最近異常なくらい塔矢に構ってるだろ?」

「そりゃな…」

進藤と顔を合わせて笑った。

「何だよ、違うのか?」

「いや、ある意味正解だけど…」

和谷には言ってもいいかな?と目で合図してきたので、頷いた。

「あと数ヶ月もしたら皆気付くだろうけど、塔矢…今妊娠してるんだ」

「は?」

和谷君が固まってしまった。

「えぇ?!マジかよ!オマエの子供?!」

「もちろん」

孕ませるのすげー大変だったんだから…と一言余分だったので、進藤の足を蹴った。

「ひえー…驚いたー。お前ら付き合い出してまだ4ヶ月ぐらいだろ?超ハイスピードだな」

「皆にはまだ言うなよ」

「あぁ…、でもお前まだ17だろ?結婚とかどうすんだよ。式は?」

「入籍はオレが18になったらすぐするよ。産まれるの12月だし…。式は身内だけ。披露宴もしねーよ」

「へー、塔矢もそれで納得してる訳?」

「うん、披露宴をするとなると、かなり碁の勉強をする時間も裂かれるしね」

あまり派手なのは好きじゃないし…。

お腹が目立つのも嫌だ…。

「でもマジ驚いた。いつの間にそんな展開に…。お前らが付き合い出した時、みーんな半年もしないうちに別れる方に賭けてたんだぜ」

もちろんオレも、と付け足してきた。

「勝手に賭けの対象にすんなよなー」


―でも僕たち自身もそう思ってた。

昔からケンカが絶えなかったし、付き合い出してからも些細なことでもよく言い争った。

いつ別れてもおかしくない状態だったんだ。

―だからこそ進藤は強行手段に出たのかもしれない。

確かな繋がりが出来れば、僕の性格上別れることはまずない、と―。


「―う…」

急に吐き気がして席を立った。

「塔矢!大丈夫か?!」

何とか首を横に振って、急いでトイレに向う。

「進藤大丈夫なのかよ?」

「まだ安定期に入ってないからよくあるんだ」

そう和谷君に告げるのが聞こえて、進藤も僕の後を追ってきた。

「…はぁ…はぁ―」

さっき食べた昼食を全部出してしまった気がする。

気持ち悪い―。

「塔矢、もう平気か?」

「―たぶん…」

まだ気持ち悪そうに口を覆っている僕を見て、進藤が心配そうにしてる。

「昼から続き打てるか…?」

「ん、それは平気」

大好きな碁を打ってる方が返って気が紛れる…。

それにいちいち休んでいたら、これから棋士なんてやっていけない―。


「進藤、塔矢大丈夫だった?」

進藤に手を引っ張られて出て来た僕を見て和谷君が聞いた。

「なんとかな…」

元の席に座らされて、進藤は今度は僕の横に座った。

「何か飲みものでも飲むか?」

「いらない―」

「全部吐いちまったんだろ?何か腹に入れとかないとまた倒れるぞ」

「……」

僕たちのやりとりを見ていた和谷君が目を丸くした。

「…何か前までのお前らと正反対だな」

「どういう意味?」

「だって前は結構塔矢の方が色々言う方だったじゃん?お前って意外と世話好きだったんだなーって」

「まさか。塔矢にだけだよ」

「うわっ、惚気?!」

そう言われて僕も進藤も顔が真っ赤になってしまった。

進藤はそのあと和谷君にからかうなって怒っていたけど、僕にとってはこの進藤の優しさがすごく嬉しかった。

あの抱かれ続けることに嫌気が差して、避妊もしてくれない最低男だと思ってた頃が懐かしい…。

これがずっと続けばいいのに―


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