●2nd FEMALE 1●
「―…ん…っ」
徐々に深く合わさってくる。
久々のキスはとても心地いい―。
…でもあまりに良過ぎてだんだん意識が遠のいていくのが分かった。
「と、塔矢…?!」
進藤の叫び声がかすかに聞こえた。
目の前が真っ暗になる――
「―ありがとうございました」
進藤の声…?
「ん…」
ここは…―
病院…か?
目が覚めたら僕はどこかの病室で横になっていた。
なんでこんな所に…。
進藤が入口のドア近くからこっちに向かってきている。
「塔矢!気がついたのか?!」
僕が起きたことに気付いて、駆け寄って来た。
「僕…」
「お前倒れたんだよ!キスの最中に…。覚えてないか…?」
もうビックリしたぜ、と進藤が苦笑いしている。
そういえば…キスをした後の記憶がないから…倒れたんだろう―。
「頭痛くない?」
進藤が手を頬に伸ばして触ってきた。
「うん平気…」
その手を掴んで握ってみる。
「―あのさ…」
「ん…?」
進藤がちょっと頬を赤めて何かを話したそうにもじもじしてる。
「何…?」
「あー…お前さ」
「うん?」
「えっと…妊娠2ヶ月なんだって―」
え…
嘘…。
あまりに驚いて呆然と固まってしまった。
「塔矢?大丈夫か…?」
「あ、うん―」
徐々に顔が熱くなってくるのが分かった。
そうなんだ…。
僕…妊娠してるんだ…。
右手をお腹にあててみた。
もちろん2ヶ月じゃ今までと変わりばえがしないけど…、いるんだ…?
ちょっと…
嬉しいかも―
「塔矢嬉しそう…」
進藤がにっこりと笑って言った。
「…キミも、ね」
「うん、めちゃくちゃ嬉しい―」
進藤が腕を伸ばして抱き締めてくる。
「―普通未婚の時って…男の人は動揺して逃げたがるって聞いたけど?」
進藤がハハっと笑った。
「そうなんだ?でもオレは違うし…。ずっとこうなって欲しかった…」
「そうだね…。キミの場合は失態じゃないから…。こうなることを最初から狙ってたもんね…」
「うん―」
あの1ヶ月前の言い争いの時には、もう既に妊娠してたんだと思うと少しおかしくなる。
策略家だな―進藤は…。
負けたよ―。
「…オレが18になったら、すぐに結婚しような?」
「―うん」
もう誕生日当日でもいいとぼやいた。
「…進藤?」
僕の手を取って指にキスしてくる。
「進藤、それ…」
ズボンのポケットから取り出したものに目がいった。
「指輪…?」
「そ、オマエが寝てる間に買ってきた」
左手の薬指にゆっくりはめ込まれる。
「あ…ありがとう…」
嬉しさで顔が緩む―。
綺麗…。
そしてもう一度指にキスをしてきた―。
「幸せにするから…絶対―」
「うん…」
頷いて、軽く唇を合わせた。
どうしよう…。
今…ものすごく幸せかも―。
「あとは…親に言わなきゃな」
「う、うん…」
そうだった…。
「塔矢先生何て言うかな…。オレ、殴られるかな」
「―かもね」
想像してみるとちょっと笑える…。
それよりお父さんはあまりに動揺して、座ったまま気絶してそうだけど…。
お母さんは…それなりにすぐ受け入れてくれそう―。
「キミの両親は何て言うかな…」
「まぁ…反対はしないかな。お前たぶんめちゃくちゃ謝られると思うけど」
「そんな!悪いのはキミなのに!」
「そ、だからオレはまた叩かれるの」
お前のことで体罰を受けるのは別にいいもん、と結構進藤は平気な顔をしている。
僕もそんなに心配はしてない。
ちゃんと話せば分かってくれる―。
僕らの両親なんだから―。
―次の日、退院した帰りに早速僕の家に向かった。
もちろんビックリされたけど…お父さんは相手が進藤だからか、殴るまではいかなかった。
進藤と付き合っていることは元々話してあったし、お父さんは進藤の碁の実力は認めてるからだ。
お互いの年齢に多少の問題があるけど、二人とも社会に出てるし経済力には問題がなかったので―結局は許してくれた。
進藤の方の両親は、案の定お母さんの方はひたすら進藤を蹴散らしていた。
けれど、お父さんの方がまぁいいんじゃないか…とすんなり許してくれたので、お母さんも最後には折れてくれた。
「嬉しそうね、アキラさん」
食事の後、片付けをしながら鼻歌を歌っていた僕に向かってお母さんが言った。
「え…そう見える?」
「えぇ、表情が柔らかいから女の子かしら」
お母さんも楽しみにしてくれてるみたいだ。
「ふふ、まさか30代でおばあちゃんに成れるなんて思ってなかったわ。進藤さんに感謝しなくちゃ」
はは…と苦笑いしてしまった。
「予定日は12月ですってね」
「うん、僕の誕生日前後かなって」
出来れば18歳で産みたいな…。
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