●FEMALE 1●
あれは1月のよく晴れた日だった―
「塔矢、付き合ってくれない?」
あまりに突然に言われたので、思わず
「どこに?」
と聞いてしまった。
お前らしいリアクションって爆笑された。
「そうじゃなくてオレ、お前のことが好きなんだ。そういう意味で付き合って欲しいって言ったんだよ」
最初からそう言ってくれればいいのに…。
恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。
―でも
どうしよう…。
進藤をそういう対象として今まで見たことなかったから…。
出会ってからずっとライバルで、それが一生続くのかと思ってた。
進藤にそういう目で見られていたことが無性に恥ずかしい…。
でも嫌な気はしない…かな。
今まで碁ばっかりで彼氏なんていたこともなかったから、ちょっと興味もある。
それなりに人見知りをする僕がこんなに打ち解けれた相手は始めてだし…。
別に付き合ってもいいかな…。
―それに
付き合ったら今よりもっと進藤と碁が打てるかも。
それは最高!
「うん、いいよ付き合っても」
「マジ?!うわっ、すげー嬉しいかも!」
進藤があまりに喜ぶので何だか僕も嬉しくなった。
―でもこんな安請け合いするんじゃなかった
後になってひどく後悔することになるなんて―
「―…あ…っ、進藤…もう…」
「…ん…オレ、も…少し―」
進藤の念入りな動きに伴って、お互い何度目かの絶頂を迎えようとしていた。
「あっ…あぁ、ん」
下肢の中に熱いものが溢れたのが分かったのと同時に、僕の方も達して一気に力が抜けた。
「…は…ぁ…はぁ…」
お互い唇を何度も押しつけ合いながら息を整えて、気持ちを落ち着かせる。
「…やばっ、もうすぐ6時だし」
「―そう…」
ホテルのフリータイム終了時間間際になって、ようやく進藤が僕の体を解放してくれた。
先にシャワーを浴びるように促されてバスルームに入る。
顔を濡らすとようやく冷静さが戻ってきた。
―また今日のデートもこれで終わり…か。
「はぁ…」
部屋を出て、進藤が精算している間、僕はいつも溜め息ばかりついていた。
付き合い出してからもう3ヶ月になる…。
お互い仕事がオフだった今日、進藤の家に誘われた。
一局打ち終わって、そしてホテルに連れ出された。
家には進藤のお母さんがいるから―
付き合い出して一週間が経った後、2回目のデートで進藤に体を許してしまった。
別に進藤に求められるのが嫌な訳じゃない。
でもあれ以来、デートをする度に毎回、だ。
ううん、こんなのデートじゃない。
確かに僕は映画に行ったりショッピングに行ったり、人並みのことをするよりかは碁を打っていた方が有意義な時間の使い方だと思っている。
だから進藤も一局打ってはくれる。
でもたった「一局」だ!
その後はひたすら夕方まで体を貪られる。
確かに気持ちいいし、嫌いな訳じゃない。
でも毎回これじゃ何のために付き合ってるのか分からなくなる…。
付き合う前より碁を打ってくれる回数が減ったのは確実だし―
進藤にとって僕は性欲処理の道具でしかないんではないだろうか―。
そう思うとかなり落ち込んでしまう。
僕が拒めばいいんだろうけど、いつも強引な進藤の押しに負けてしまうんだ…。
―それに何より気になるのが
避妊の問題だ―。
進藤はベッド脇に用意されているのにも関わらず、付けてくれたためしがない。
それなのにほとんど毎回中に出してくる。
これでは妊娠するのは時間の問題だ。
まだ17で結婚もしてないのに冗談じゃない!
嫌なら僕が薬でも飲めばいいとでも思ってるのだろうか。
それはまた屈辱的な話だ。
もう嫌だこんなの…。
別れたい―
そう思ってから数日後、手合いの後に僕は進藤を呼び出した。
「話って…?」
「……」
正直…話づらい…。
これを言ってしまったら、僕たちの関係はどうなるんだろうと思うと―。
まず友達としての付き合いはもう望めないんだろうな…。
ライバルとしてはどうだろう。
―それも微妙だ。
たぶん手合いであたった時以外ではもう二度と打ってくれない―。
まぁ…今だってたいして打ってくれてるわけじゃないけど―。
「別れて…くれないかな…」
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