●MY DOUBLE 3●
「進藤君♪」
駅前でミナミちゃんと待ち合わせたオレは、まずは一緒にランチに行ってみた。
塔矢にそっくりなミナミちゃん。
まるで塔矢とデートしてる気分だった。
でも…女の子の格好。
今日もスカート。
女…の塔矢?
何だかドキドキしてきた。
「私ね…実は進藤君に一目惚れなの」
「え?一目…惚れ?」
「うん。進藤君の棋譜に」
「き、棋譜??」
それはつまりオレの碁に惚れたってことか??
何かホントに塔矢みたいな人だな……
「ほら、年末の王座の五番勝負。四戦目の棋譜だったかしら」
「ああ…あれね。でも結局王座は取れなかったからなぁ…」
「囲碁は勝ち負けより内容でしょう?あの進藤君の新手、いつか私も使ってみたいわ」
「はは…」
もし塔矢が女だったら……こんな感じだったのかな?
なんてことばかり考えながら…ミナミちゃんと話し続けていた。
塔矢は男だ。
そしてオレも男。
一応付き合ってはいるけど……ずっと続けるわけにはいかない。
オレは一人っ子だから…いつかは子供も欲しい。
ミナミちゃんとだったら…それが叶うんだよな。
塔矢本人ではないけど、まるで塔矢と…家庭を作ってる気分になれるかも……なんて。
「進藤君はアキラのこと、どう思ってるの?」
「え?どう…って」
「二人がライバルだってことは有名だけど、それだけじゃないわよね?」
「……」
「ホワイトデーにいい歳した男が二人で…なんて、別にBL好きじゃなくても勘違いしちゃうわ。もっとも…アキラは本当に進藤君のことが好きみたいだけど」
「……」
「似てるから…アキラの気持ちが分かるのよね。進藤君を私に譲る気なんだと思う…」
オレを…自分そっくりのミナミちゃんに譲る…か。
塔矢らしい……
「隠しても無駄っぽいから言うけど……確かにオレらは今付き合ってるよ。好きだから…誰よりも」
「……そう」
「でも…好きだから、お互いのこれからの人生を考えたりもするんだ。きっと…オレらの関係は一生は続かない。そのうち囲碁だけに戻る」
「……そうね」
「塔矢にもそのうち家族は必要になる。オレの我が儘でアイツをずっと一人にはさせたくないから……オレもいつかは覚悟はするつもり。今は…まだ無理だけど」
「アキラも同じ気持ちだと思う…」
「うん…」
頭では分かってるんだ。
いつかは終わりにしなくちゃならない…って。
でも…今はまだ無理だ。
将来のことより今が大事。
気持ちが優先。
それは塔矢も同じだと思う。
だから、きっと今頃…オレとミナミちゃんを会わせたことを後悔してる。
「ごめん。だから…キミとは付き合えない。…今は」
「…やっぱり本気だった分…ちょっと辛いわね。でも…アキラに恨まれないで済みそう」
「はは…」
「私…アキラと一緒で結構一途なの。私のこと、覚えておいて」
「…ありがとう。そうだな…30過ぎたら、頼むかも」
「うん、待ってる。じゃあそれまで私も研究一筋に生きることにするわ♪」
NEXT