●MY DOUBLE 1●
3月14日――ホワイトデー。
バレンタインに引き続き、今日は恋人である塔矢と囲碁デートをする約束だ。
ピンポーンとウキウキでアイツの家のチャイムを鳴らすと……出てきたのは『女』の塔矢だった――
「……塔矢?」
「え?そうだけど…」
えーと…えーと?
言っておくが、オレが知ってる塔矢は正真正銘の男だ。
じゃあなぜ女だとオレが思ったのかと言うと…スカートを穿いてたから。
じゃあ女装の塔矢?
いやいや、そもそも何でこんな格好なんだ?
何のサービスのつもり?
「ああ進藤、すまない。ちょっと手が離せなくて…」
後ろからいつもの塔矢が出てきた。
へ?
「あれ…塔矢?じゃあこの人…誰?」
「従姉にあたる塔矢ミナミだよ。昨日から遊びに来てるんだ」
「初めまして」
塔矢にそっくりな顔でニコッと笑われる。
胸がちょっとドキッ…とするのが分かった。
「ふ、ふーん…塔矢ってイトコなんていたんだ?似てるな」
「昔はよく双子に間違えられたよ」
「女の子の双子にね。アキラって女顔だから」
そう言ってくすくす笑うミナミちゃんに、塔矢がムッと顔を顰めた。
「歳も近い?」
「ああ。同い年…というか5日違いだった?」
「そうね。アキラが14日生まれで私が9日だから」
「へぇ…」
へぇ…へぇ…へぇ〜〜
話しによると、ミナミちゃんは塔矢先生のお兄さんの娘さんらしい。
今は大学院生で、将来は考古学者を目指してるんだとか。
しかも、碁も打てる。
「昔はよく一緒に打ったわね。もうアキラは雲の上の棋力になっちゃったけど」
「僕もまだまだだよ」
「タイトルホルダーが何謙遜してるの」
塔矢は今、名人と十段の二冠だ。
そういうオレも去年ついに念願の本因坊を奪取した。
ミナミちゃんもオレの名前ぐらいは知ってたのか、
「まるでタイトル戦みたいね」
とオレらが打ってるのを少し興奮気味に観戦していた。
二人の塔矢に挟まれて、オレの胸はさっきからドキドキが止まらない。
塔矢に顔も髪型も身長も声までもそっくりなミナミちゃん。
体型だけはやっぱり女性で。
塔矢が女だったらこんな感じだったのかもな〜なんて。
「ちょっとお手洗いに行ってくるよ」
「ああ」
塔矢がトイレに行ってしまったので、オレはミナミちゃんと二人きりになった。
チラッと彼女を見ると――目が合った。
「聞いてもいい?進藤君って…彼女とかいるの?」
「え?彼女…はいないけど…」
彼氏はいるっていうか……
「そうなんだ。よかった」
よ…よかった??何が??
「…ミナミちゃんは?」
「今はいないわ」
「…へぇ」
「私…昔からアキラに似てるって言われてたの。外見はもちろんだけど…中身も」
「中身?どんなところが…?」
「そうね…例えば性格とか好みとか。趣味も。あと…好きな人のタイプもかな」
「は…?」
好きな人の…タイプ?
オレと塔矢は一応付き合ってる。
じゃあ塔矢のタイプはオレ?
てことは…ミナミちゃんのタイプも?
はは…そんなわけ…
「ね、彼女いないなら…私と付き合ってみる気ない?」
………は?
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