「ヒカルなんか、大嫌い」
「………ごめん」
それが僕達が夫婦として交わした最後の言葉だった―――
あれから早2年。
シングルに戻った僕達は、仕事も私生活も充実の日々を送っていた。
僕は名人、進藤は本因坊のタイトルを手にいれた。
休日はもっぱら語学教室。
昔から語学が得意だった僕は、更に研きがかかってフランス語とポルトガル語も始めていた。
「塔矢さんは彼氏いるんですか?」
「いないけど…」
「本当に?信じられないです」
同じ教室に通う大学生の男の子が目を丸くしてきた。
「僕…立候補しちゃダメですか?」
クスッと笑って、僕はこう断る。
「ごめんね。男なんてもう懲り懲り」
嫌な男に引っ掛かったと言えばそれまで。
世の中は半分が男だ。
僕に相応しい人は他にいくらでもいるかもしれない。
でも僕は、仕事においてはこれ以上ないって程の男と結婚したんだ。
彼でダメだったのに、他の人で上手くいくはずがない。
「進藤、今日この後打てないか?」
「ごめん伊角さん。ちょっと先約が…」
「デートか?仕方ないな…じゃあまた近いうちに」
「うん」
手合いの後、そそくさとデートに勤しむ進藤。
僕と違って、彼は他の女の子と付き合うことを楽しんでるみたいだった。
今付き合ってるのは19才の短大生。
色んなものを買ってあげてご機嫌を取ってるみたい。
「塔矢、内心複雑じゃないか?」
伊角さんが聞いてきた。
「え?何がですか?」
ととぼける。
そうだな…ちょっと複雑。
でも、もう別にどうでもいい。
今はもう他人だし……
「進藤の奴も何だかやけになってる感じがするけどね」
「……」
「実はまだ塔矢のことが好きだったりして?」
「はは…ご冗談を。裏切ったのは進藤の方ですよ」
18の時―――僕らは早いと周りに反対されながらも結婚した。
もうこれ以上の人は現れないと思った。
だから、早く繋ぎとめておきたかった。
独占したかった。
でも―――
「本っ当にゴメンっ!ほんの出来心!」
「………」
「オレが本当に好きなのはオマエだけだからっ」
「……別れよう」
「―――え?」
あの時の彼の顔は今でも忘れない。
たかが一回の浮気が離婚に繋がるとは思ってなかった?
そうだね、僕も若かったから。
キミが若いから衝動で他の女の人を抱いてしまったのと同じように、僕も若かったから許せなかった。
20の時―――僕らはまたしても早いと反対されながらも離婚した。
あれからもう二年が経つ。
机の中に片付けられたままの結婚指輪。
たまにはめてみて……過去を懐かしむ。
後悔…してるのかな。
進藤の……ばか。
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