●DIARY●
▼▼▼第七章 二度目 ヒカル▲▲▲
アイルちゃんと眠る初めての夜。
再びアイツの声が聞こえた。
《ヒカル、ヒカル》
「ん…佐為?」
《どうでした?大変なことになったでしょう?》
「お前なぁ…大変ってレベルじゃないって」
《じゃあ、今度はちゃんと起きて下さいね。今度は間違えないで下さいね》
「は…?おい、待てって!佐―――」
ハッと目が覚めた。
何なんだよ…もう。
ちゃんと起きたら…何か変わるのかよ…。
溜め息をつきながら…オレはしぶしぶ体を起こした。
横で眠ってるアイルちゃんを起こさないように……
………て
ええ??
「ん…ヒカル君なに寝言言ってるのぉ…?」
横で眠っていたのは……なぜか別れたはずの彼女だった。
なんで……
「ヒカル君??」
慌ててベッドを降りたオレは、一目散にリビングにダッシュした。
テレビテレビテレビ…。
ピッとつけると、ニュースキャスターの下にある日付は5月5日と確かに書かれてあった。
5月5日…あの事故の日だ。
でも、7時現在…飛行機事故のニュースはまだしてない…。
もしかしてまだおきてない…?
ドキドキしながら…携帯を手に取った。
前回は不通コールばっかだった塔矢への電話。
今回は……
『…はい?もしもし?』
「塔矢…?」
『そうだけど…ごめん、進藤。もう搭乗時間なんだ。上海に着いたらかけ直すよ』
塔矢の声だ……
生きてる……
塔矢が話してる……
こんなこと…こんな嬉しいこと……
『進藤?聞こえた?』
「え?ああ…。いや、ああじゃねーし!塔矢!飛行機に乗るな!」
『は?何言って…』
「いいから乗るな!絶対に乗るなよ!乗ったら死ぬぞ!!」
『ごめん…冗談に付き合ってる暇はないんだ。本当にもう時間なくて…』
「ダメだー!!頼む塔矢!乗らないでくれ!!塔矢!!頼むから!!」
『進藤…?どうしたんだ?キミ…』
「オマエオレのこと好きなんだろ?!好きなら乗らないでくれ!!」
『は…?なに急に…』
「オレもオマエのこと好きだ!大好きだから!!愛してる!!」
『…え…進…藤?』
「オマエがいなくなったらオレはもう生きていけないんだ!オレだけじゃない、アイルだって!」
『え……なんで……キミ…アイルのこと…』
「絶対に乗るなよ塔矢!乗らなかったら結婚してやるから!いいな?!」
『あ……ああ』
「そこで待ってろ!オレもすぐそっちに行くから!」
ピッと切った後、パスポートと財布だけ鞄に放り込んで、急いで玄関にダッシュした。
先回りしてた彼女に思いっきり睨まれる。
「今の電話…なに?」
「ごめん…そういうことだから。本当ごめん!帰ってきたらちゃんと話す!」
「もう結構よ!さようなら!!」
左頬にビンタが飛んできた。
いってぇ……
でも、今は痛がってる場合じゃない!
急いで成田に向かったオレは北京行きの飛行機に飛び乗った。
早く早く早く早く〜〜とイライラすること3時間。
ようやく北京に着いたオレは、到着ロビーに着くなり塔矢にもう一度電話をかける。
『はい…』
「塔矢?!今どこ??」
『キミの目の前かな…』
「え…?」
顔を上げると、もう一度見たくて見たくて仕方のなかった彼女の笑顔が…オレの視界に飛び込んできた。
「塔矢!!」
直ぐさま駆け寄って…抱きしめた―――
「塔矢ぁ…塔矢ぁ…」
「もう…相変わらずキミの行動は理解出来ないよ…」
「命の恩人に向かってそのセリフはないんじゃねーの?」
「何が?」
「ニュース見てねーの?」
「ニュース…?」
ロビーにあったテレビの前に塔矢を連れて行った。
あれ……?
流れていたニュースは…普通に中国経済の特集だった。
あれれ…?
「オマエが乗るはずだった飛行機…無事に上海に着いたのか?」
「ああ。もう二時間も前にね」
「…マジ?どうなってんだ…?」
「それはこっちが聞きたいよ」
よく分からないけど、塔矢は無事で…事故も起きてない。
安心したら一気に力が抜けて…腰が抜けて座り込んでしまった。
「よかった…ホントよかった…」
「何が?」
「色々と…」
はぁ…と塔矢に凭れかかった。
「…で、進藤。さっきの電話のことなんだけど…あの」
「え?」
「その…どうして…キミがアイルのことを…」
「ああ…そうだそうだ」
再びしゃきんと立ったオレは、塔矢の目を見て…自分の気持ちを彼女に伝えた。
「塔矢…好きだ」
「進藤…」
「結婚しよう」
「…いきなり?」
「ああ。でもって、アイルちゃんと三人で暮らそう。今まで不安にさせた分…絶対に幸せにするから」
「………」
「…塔矢?」
彼女の目から涙が溢れてきた。
オレの胸にぎゅっと抱き着いてくる――
「嬉しい…」
「塔矢…」
「アイルのこと…ずっと言えなくてごめん…」
「オレも…気づいてやれなくてごめんな」
「今日はあの子の誕生日なんだ…。プレゼント…キミにしたら喜ぶかな」
「ああ…絶対に喜ぶって」
「ふふ…」
これ以上ないってぐらい抱きしめ合ったオレらは、大勢の人が行き交う空港で、人目なんか気にせず、甘くて熱い…とろけるようなキスをエンドレスに繰り返した―――
NEXT