●DIARY●





▼▼▼第二章 嘘だ  ヒカル▲▲▲






オレが初めて塔矢アキラに会ったのは小学6年の時だった。

いわゆる『一目惚れ』ってやつをオレは経験したんだ。

好きな奴には意地悪したくなるのが男の性ってやつで、向かってくるアイツを無視した時もあった。

反対に無視られた時もあったよな。

精神的に幼くて子供だったオレらが、ようやくまともに向き合って話せるようになったのは、中学も終わりに近付いてきた頃だった。

その頃も相変わらず塔矢のことが好きで……というか今も大好きで……


でも、一生ライバルでい続ける為にはこの気持ちは邪魔だと思っていたんだ。

塔矢とずっと対等に打ち続けたかったから。


だけど、こんなことになるなら…打てなくなる日がこんなにも早く来るって分かってたら……オレはとっくの昔に彼女に想いを告げていただろう。



嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

こんなの、絶対に嘘だ!


塔矢がいなくなるなんてありえない。

塔矢ともう打てないなんて……

塔矢がオレの前からいなくなるなんて……

塔矢が死ぬなんて……


絶対にありえない!!!









「…進藤?大丈夫か?」

「………」


隣に座っていた和谷に、オレはブンブンと首を横に振った。


「そろそろオレらも行かないと。立てるか?」

「………」


もう一度、首を横に振った。


無理矢理連れて来られた塔矢の葬式で、オレは正面の彼女の写真をまともに見ることも出来なかった。

誰が…お焼香なんかあげるもんか……

何で…皆、人の死をこんなにも早く受け入れられるんだろう。

オレには無理だ。

認めたくない。

受け入れたくない。

塔矢は死んでなんかない。

アイツがこんなにも簡単に死ぬもんか!

だって塔矢アキラだぜ?

天下の塔矢アキラ様。

囲碁界の宝。

サラブレッド。

女王。

アイツがいなきゃ…意味がないんだ。

塔矢がいなきゃ……オレは…神の一手を極めるどころか…打つことも出来ない……

打つ意味がないんだ……




「進藤?」

「ごめん…オレ…もうこれ以上……。…やっぱ…帰るわ…」

「…ああ」


一人、一足先に会場を出ると、不謹慎なぐらいカメラマンや記者がいて。


「進藤本因坊、ライバルを失った今の気持ちを一言いただけますか?」

とか聞いてくる。

女じゃなかったら殴りかかってたかもしれない。

ただ睨みつけて、オレは一目散に走って逃げた。








「……と……や……」


駐車場に止めてあった車まで着くと、今まで出なかった涙がどっと溢れ出てきた。

認めたくなかった彼女の死。

誤報であってほしかった。

実は乗ってなかった、実は助かってたって誰かが教えてくれるのを…期待してた。

でも…葬式まで行われたとなると…もう認めざるを得ないのかも…。

なんで…なんで…どうして…こんなことになっちまったんだろう。

オマエがオレをこの世界に引っ張ってきたんだぜ…?

責任取って…最後までちゃんと付き合えよ。

一人だけ先にいっちまうなんて…ずるい。

オレ一人でどうすりゃいいんだよ…。



―――それに



『いい加減話さなくちゃいけないこと』

って…何だよ?

気になるじゃん。

どうせオレが好きだって言うんだろ?

オレも好きだよ。

大好きだ。

付き合おう。

いや、もう結婚しよう。

な?塔矢。



だから…だから…帰ってきてくれよ―――











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