●DIARY●

※死にネタとなっています。ラストはハッピーエンドですが苦手な方はご遠慮ください※





「明日から北京だっけ?」

「うん。その後ついでに上海にいる両親にも顔を見せてくるよ」

「そっか」

「……帰ってきたら、いい加減キミに話さなくちゃいけないこと…言うね」

「え?何?」

「帰ったら…言うよ」

「ふーん?分かった」



何だろう。

もしかしてこの塔矢アキラ様がオレに告白か?

なーんて一人ドキドキしてた。




まさかこのまま塔矢に二度と会えなくなるなんて…この時は思いもしないで―――


















▼▼▼第一章 悪夢  ヒカル▲▲▲





《ヒカル!ヒカル!起きて下さい!》

「ん〜〜…何だよ佐為〜…」

《早く起きないと大変なことになりますよ!》

「だーいじょうぶ〜遅刻はしないってー…だって今日休みだし…」


むにゃむにゃ佐為の声に寝ぼけながら答えた後、

「え?!佐為?!」

と慌てて飛び起きた。


でもいつもと変わらず部屋にアイツの姿はなくて……代わりに横にいたのは……



「ん…ヒカル君なに寝言言ってるのぉ…?」

「あ…ごめん、起こしちゃった?もう一回寝直そうぜ…まだ7時だし」

「ふふ…」


代わりに横にいたのは…今付き合ってる彼女だった。

起きた彼女が悪戯っぽくオレの上に乗ってきて――キスしてきた。

そのまま昨晩の熱を復活させて、再び体を交ざり合わせてみる。

頭の奥では――佐為が夢に出て来たの久しぶりだな…とか。

大変なことって何だ?遅刻以外にも何かあるのか?とか――他のことを考えながら…







「朝メシ何食う?パンでいい?」

「うん、ありがとう」


10時になってようやくオレらはベッドを降りた。

遅い朝食を作る為に、一人暮らし用の小さな2ドア冷蔵庫を開ける。

でも、いつも通り中はすっからかんで。

卵とベーコンだけ取って、またすぐに閉めた。


一人暮らしを始めて今日でもう丸5年だ。

何でこんなに日付をきちんと覚えてるのかと言うと、今日が『あの日』だから。

アイツが消えて…佐為が消えて…もう9回目の5月5日・子供の日。

この日はなるべく一人では過ごさないようにしている。

アイツのことを思い出して…センチメンタルになっちまうから。

だから昨日から彼女を家に泊めて、今日は一日中二人きりでいちゃいちゃする予定。

いや、予定だった…




「うわ、中国なんかすごいことになってるよー」

「へー?」


テレビを点けた彼女が、料理中のオレにもニュースを教えてくれる。


「飛行機事故だって。うっわぁ…ぐちゃぐちゃ。中国って怖〜い」

「また事故?この前エールフランスであったばかりじゃなかったか?」

「でもあれは大西洋でしょ?今回は中国だもん。日本人も結構乗ってたみたい」

「ふーん」

「すっごいよ、乗員乗客合わせて死者402人だって。ヒカル君も見た方がいいって!」

「マジ?ちょっと待って」


ようやく焼き上がった目玉焼きやトーストを、急いでダイニングテーブルに持って行った。

彼女が「どのチャンネルもこのニュースだ〜」とリモコンでチャンネルを変えまくってる。

にしても…こんな日にこんな暗いニュースだなんて…ますます最悪な日な気がした。

何が子供の日だ。



「北京発上海行きの便だって」

「へぇ…北京発上海ねぇ」


何か聞いたことのある組み合わせな気がした。

しかもつい最近。

あ、思い出した。

塔矢だ。

世界棋戦の為に3日前から北京に行ってる彼女。

大会が終わったら上海にいる塔矢先生にも会いに行くって言ってた。

塔矢もこのニュース知ってるのかな?


「誰に電話するの?」

携帯を手に取ると、彼女が聞いてきた。

「ん?北京にいる同僚に。アイツも上海行くって言ってたからさ、向こうの様子とか聞けるかも」

「…それってもしかして塔矢アキラ…さん?」

「え?うん…」


何でコイツ…塔矢の名前知ってるんだ?

オレが不穏がってると、彼女がテレビを指差してきた。

そこには搭乗名簿に書かれてあった日本人の名前と年齢が次々に流されていて。

しかも普通の旅行者や会社員じゃない、それなりに知名度もある彼女の名前は……他の人とは違って大々的に……大きく上に書かれていて……


ていうか…ていうか……




「……嘘だ…ろ…?」




オレの手から落ちた携帯からは

『おかけになった電話番号は電源が入っていないか電波の…』

というアナウンスがエンドレスに流れていた――













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