●DATING SITE 1●





「出、出会い系…?」





今年に入って既に3回目の結婚式にお呼ばれされた僕は、複雑な心境で新たな門出を迎えた新郎新婦を同僚達とお祝いしていた。

ああ…これでついに僕より年上の独女はいなくなった。

今日の新婦は僕より3つ年上の、棋院で唯一の30オーバーの独身女流棋士だった。

今年30になる僕は、一気にまるでお局のOLになった気分だった。



「次は塔矢さんの番ね」

「……ありがとうございます」


定例のブーケトスではなく、花嫁が直接僕にブーケを渡してくれた。

婚約者どころか彼氏すらずっといない僕にとっては嫌味にしか感じない。

全くもって大きなお世話だった。


「実は私もね、半年前までずっと独り身だったのよ。だから頑張って」

「……え?」


半年前に出会って、すぐに交際。

2ヶ月後にはプロポーズされて、運よく式場も空いていて、現在に至るのだという。

まさしく『縁』というやつだ。

結婚は縁とタイミングだと、昔母が言っていたのをふと思い出す。

僕にもそんな『縁』はいつかやってくるのだろうか。

今の囲碁中心の生活を振り返ると、そんな縁は無縁に感じるのだけれど。


「待ってるだけじゃダメよ。動かなきゃ」


まぁ塔矢さんなら美人だから待ってるだけでも向こうからやって来そうだけど、と笑われる。

美人なだけで結婚出来るのなら女優やモデルに独身はいないはずだ、と苦笑いしながら心の中で毒気ずく。


「実は私はね、これでダーリンゲットしたのよ」


こそっと耳打ちされる。

これ―――彼女が指差したのは、僕が式の写真を撮る為に手にしていたスマホだった。


………は?


「私もゴールインした友人から聞いて登録してみたの。後で塔矢さんにもアドレス教えてあげる」


じゃあまたね、と次は披露宴の衣装替えの為に花嫁は去っていった。

登録?

アドレス?

それってまさか……


「出、出会い系…?」









披露宴もつつがなく終わり、帰路に着いてから一時間後、今日の主役からメールが届いた。

今日のお礼と、例のサイトのアドレスが添付されていた。

あんまり気は進まなかったけど、義理気分でそのアドレスを開く。

予想通り……出会い系のサイトだった。

馬鹿馬鹿しい、こんなサイトを利用したからって結婚相手が見つかるものか!

と思うのだけれど、なんせ今日の新郎新婦が実際ゴールインしているのだ。

彼女の友人も。

このまま何もしないで半年後、30になるのを大人しく待つよりはいいのかもしれない……

ここは騙されたと思って、と僕も登録してみることにした。


「名前はニックネームでいいのか…。アキラのアを取って『キラ』にでもしようかな…」


名前、年齢、所在地、学歴、職業、趣味………

半分は真実を、半分は嘘を次々に入力していった。

なぜ全て本当のことを書かないのか。

それはもちろん、東京都在住の29才の囲碁棋士(♀)なんて、この世で僕しかいないからだ。

もし僕を知ってる人がそんなプロフィールを読んだら、一発で僕だと分かってしまう。

知り合いだったら最悪だ、恥ずかしすぎる。

だから半分は嘘にする。

学歴は高卒。

職業は……フリーターでいいや。(どうせ休み不定期だし)

趣味は読書、映画鑑賞、旅行とか無難なのと、あと囲碁も。


全て入力し終えた僕は、ちょっとドキドキしながら登録ボタンを押した――









NEXT