●CUPID 4●
「…さん?アキラさん?」
「え?あ…ごめんなさい。何の話でした?」
もうすぐ結納をもかわす婚約者とせっかく食事に来てるのに、会話も頭に入らなければ食も進まない。
今朝の進藤の一件をまだ引きずってるのだろうか。
彼に彼女が出来たからどうだっていうんだ。
僕にだって婚約者が出来た。
だけど僕にそっくりって………
「今日は何だか上の空だね。仕事のこと?」
「ええ…まあ。今日負けてしまいまして…」
見落としの連続で…なんて情けない話だ。
「酷い碁でした…」
「原因は追求した?」
「ええ…まあ」
「じゃあ後は早く忘れて次に備えるのが一番。もう一杯どうぞ」
「…ありがとう」
グラスに注がれるワイン。
お酒なんて美味しいと思ったことなかったけど、今日は何だか進む。
まだまだ飲める気がする。
でも弱いからすぐに酔っちゃうね。
ふらついて、そのままこの婚約者に介抱されるのかな。
ホテルのレストランだから、そのままお泊りになっちゃうかも。
――嫌だ――
でも嫌なことは忘れるのが一番。
進藤への想いなんて忘れて、この婚約者の胸の中で安らぎを求める方がいいのかもしれない。
「大丈夫?」
案の定、食事を終える時には頭がふらふらして、まっすぐ歩くことも大変だった。
「タクシー乗り場まで歩ける?」
「なんとか…」
「少し横になった方がいいね。ホテルの部屋取ってこようか?」
「……」
彼に誘導されながらとりあえずエレベーターまで辿り着いた。
チン
扉が開いて乗り込もうとしたその時――
「……塔矢?」
「…え?」
聞き覚えのある声に頭を上げると―――進藤がいた。
「なん…で」
「晩飯食いにきただけだけど……塔矢も?」
「ああ…」
進藤の横にいる女性―――この人か。
この人が進藤の新しい彼女。
本当だ。
異様なぐらい僕に似ている。
「塔矢…飲んだのか?弱いくせに」
「いいだろ…別に。今日は飲みたい気分だったんだ」
「危ねっ!」
さっさとエレベーターに乗ろうと足を進めた矢先、ふらついて倒れかけた。
受け止めてくれたのは婚約者ではなく………進藤。
「ホントに大丈夫かぁ?さっさと帰って寝ろよな」
「分かってる…よ」
すぐに離れたものの、彼の体の温かさに…ちょっと酔いが醒めた。
僕はやっぱり進藤に恋してるんだと思いしらされた瞬間。
進藤の胸の中ではきっと安らげない。
ドキドキ…してしまうから―――
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