●CUPID 1●
――塔矢が好きだ――
「ふーん…じゃあ上手くいきそうなんだな」
「うん。今度の誕生日に合わせて結納になりそう」
「へー…」
塔矢が好きだ。
好きで好きでたまらないのに、オレはずっといい友達兼ライバルの位置を保っている。
塔矢が見合いをした。
すげーいい奴みたいで結婚まで話が進んでて大ピンチなのに……口が開かない。
今更格好悪くて言えない。
単に臆病なのかも。
下手に告って距離が出来るくらいなら一生この位置の方がいい……なんて………そんなわけねーのに。
「囲碁に理解のある人なんだ。だから結婚してもこうやってキミと度々打つことも出来そうだよ」
「そっか…そりゃよかった」
何がいいんだよオレ!
しっかりしろよっ!
終局後の石を片付けながら、オレはどうやったら塔矢を手に入れられるのかひたすら考えていた。
それとももう手遅れ?
潔く諦めなくちゃなんねーのかも……
「帰ろうか」
「ああ…」
碁会所の裏手に止めてある車に乗り込み、いつものように塔矢家まで車を走らせた。
信号待ちの時、ちらっと塔矢の顔を見た。
偶然にも目が合って………見つめ合う。
「進藤は…おめでとうって言ってくれないんだね」
「……」
信号が青になったので、再び前を向いて運転に集中する。
おめでとう…なんて絶対言ってやるもんか。
だって、オレにとっては全然全くこれっぽっちもめでたくなんかない。
「結婚式…来てくれる?」
まるでオレの気持ちを知ってるかのように遠慮気味に聞くコイツ……すげームカつく。
んなもん行きたくねーに決まってんだろ。
でも立場的に行かないと…マズイよな。
なんせコイツの一番の友達はオレだ。
(もしくは芦原さんか市河さん)
塔矢先生にも明子さんにもお世話になってるし…行かないと後で緒方先生に何を言われるか……なんてどうでもいいか
「たぶん…行く」
「そう…。ありがとう」
塔矢家に着いて、再び塔矢が「ありがとう」と言って家の中に入っていった。
あーあ…男と女ってどうしてここまで違うんだろ。
もうすぐ22歳になる彼女が最近(いや、前からか?)ものすごく大人に感じる。
オレは好きな女に好きも言えないガキで………当然彼女の結婚を止めることも出来ない。
やっぱ諦めて他で恋人を作るしかねーのかも。
どうでもいい奴には簡単に好きって言えるのになぁ…
再び車を走らせて、自分の家へと向かった。
「…ん?」
マンションに着いて、そのまま駐車場に入ろうとした時、エントランス前に女の子が立っているのに気付いた。
マンションの他の住人なんかいつもは気にしないんだけど……妙に目に入った。
それはその子の容姿がある人の子供の頃にそっくりだったからだ。
見間違い?
他人の空似?
何となく急いで駐車場からエントランスに向かうと―――まだ居た。
やっぱり…似てる。
思わず
「塔矢…?」
て尋ねちまうぐらい。
そう―――初めて塔矢に合った12歳の時、アイツはこんな感じのオカッパの中性人間だった。
にこっと笑い、その塔矢にそっくりの女の子はオレの方に駆け寄って来た。
そのままぎゅっとオレの胸に抱き着いて―――信じられない言葉を発する。
「パパ」
………はい?
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