●COURSE●

※このお話はSAKURA Uの窪田×内海女流の要素を含んでいます。先にそちらをどうぞ。





高2の終わり、タイトル戦が絡み出してから、進藤が学校に来る日数は極端に減った。

一番酷かったのは高3の秋で、月曜から金曜まで丸々休んだ週もあった。



休み時間に携帯で速報を見る。

王座戦挑戦手合の第2局。

持ち時間は両者とも残り10分を切っていた。


(次の授業の間に決着着きそうやな……)


「西条君も見てるの?」

顔を上げると、同じ棋士のクラスメート、内海さんが同じように携帯を見ながら立っていた。

「まぁなぁ。やっぱ気になるし」

「進藤君、このまま勝ちそうだね」

「やな」

「すごいねぇ二連勝。名人のタイトルも先週奪取したばかりなのに」

「…そやね」

「このまま三冠になっちゃうのかな?」

「…かもな」


携帯に視線を戻した。

既に最終局面で、白の進藤の方が僅かにリードしていた。

このままいくと、進藤の1目半勝ちだ。

三冠が現実味を帯びてくる。



「進藤君は高校卒業したら当然棋士一本の生活なんだろうな」

と言いながら彼女が前の席に腰掛けてきた。

「西条君はどうするの?」

「俺は進学するつもり」

「そうなんだ。まぁ西条君、頭もいいもんね…」

「……」


別に頭がいいから進学するわけやない。

俺だって出来ることなら高校卒業後は棋士業に集中したい。

でも俺にはどうしても進学しなければならない理由があった。



「内海さんはどうするん?」

「私も一応進学かな。棋士一本でいけるほど強くないし…。でも成績もそんなにいいわけじゃないから、微妙な大学になりそうだけど…」

「内海さんならもう一個選択肢あるやん」

「え…?」

「結婚したら?窪田さんと」

「は……っ?!」


途端に顔を真っ赤にしてきた。

何で知ってるの??って顔。

アホか、もう棋院中が知っとるわ。



この内海さんとあの窪田碁聖が交際を始めたのは8月中頃らしい。

それを棋院で誰かがウワサしてるのを聞いた時、ちょうど進藤も横におって。

「「マジで?!」」

と二人で興奮気味に顔を見合せたものだ。


窪田さんは(進藤以外では)桁外れで女性から人気がある人だ。

その彼を射止めたのが、この平々凡々な内海さんとはビックリだ。



「結婚なんて…恐れ多いよ。付き合えただけでも奇跡なのに…」

「でも告ってきたんは向こうなんやろ?」

「よ、よく知ってるね…」

「ほな別に引け目感じんでもいいんちゃう?」

「う…ん、でもやっぱり窪田さんと私じゃレベルが違い過ぎて……」

「棋力がってこと?」

「棋力はもちろんだけど……人間性とか、考え方とか…もう何もかも。何で窪田さん私なんかに告白したんだろ…」


本人もよく分かってないらしい。

よく分からないまま付き合っているらしい。


でも俺は知っている。

進藤から聞いたからだ。

進藤も直接窪田さんに聞いたらしい。

9月に棋聖リーグで二人が直接対決をした時、休憩時間に偶然自販機を利用するタイミングが被ったらしい。


『…そういえば内海さんと付き合い始めたとか聞きましたけど?』

『まぁね。進藤君、同じクラスなんだって?』

『はい、中3からずっと同じです。海王は棋士を一クラスにまとめてるので』

『面白い学校だよな。じゃあ進藤君は俺よりさくらのこと、よく知ってるわけだ?』

『いえいえ、もう窪田さんの方が知ってるでしょ』

『昼間っから下ネタ?』

『そういう意味じゃありませんよ』


お互い缶コーヒーを飲みながらまぁまぁバチバチやってたらしい。

進藤からしたら、やはり心配なんだろう。

(あくまでクラスメートとして、だけど)


窪田さんは昔から女性に人気がある。

ということはそれなりの女性遍歴があるわけで。

軽いわけではないけど、俺や進藤みたいにずっと同じ人と付き合い続けているわけではない。

一方内海さんは全くの恋愛ド素人だ。


『内海さんのどこが良かったんですか?』

『俺にとって、さくらは天使だから』

『天使…?』

『さくらがいなかったら、俺はぶっちゃけタイトル取れてないよ。進藤君も同じだろ?』

『え?』

『緒方さん抜きで十段取れてた?』

『……取れてませんね』

『だろ?進藤君にとっての緒方さんが、俺にとってのさくらなわけ。納得した?』

『はい…』

『心配しなくても、彼女を泣かせるようなことはしないよ。約束する』

『僕に約束されても…』

『そうだった。じゃ、今度さくらの両親に挨拶でもしてくるかな〜』


じゃ、昼からもヨロシクと窪田さんは先に対局場に戻って行ったらしい――





「はぁ…本当何で窪田さん、私になんか告白したんだろう…」

「まぁええやん。上手くいっとんやろ?」

「うん……まぁ」

「ほんで?もう親にも会わしたん?」

「うん……何故か挨拶したいとか窪田さんが言い出して。うちの両親はめちゃくちゃ喜んでたけど…」

「はは、そりゃな」


そりゃ喜ぶだろう。

囲碁界を知る者で窪田碁聖を知らない者はいない。

娘の恋人がタイトルホルダー、しかも窪田碁聖だなんて、棋士の娘を持つ親としては大歓迎だろう。



「でも付き合ってまだ3ヶ月だから……これからどうなるか分からないし。結婚なんて夢見るより受験勉強頑張るよ…」

「そやね」


でも俺は窪田さんが本当に挨拶に行ったと聞いて、彼の内海さんに対する本気度が分かった気がした。

(どこが天使なんかは分からんけど、本人がそう思ってるならそうなんやろう)

確かに高校卒業と同時に結婚はないかもしれんけど、大学卒業と同時は十分あり得る気がした。

そういう俺もそれを狙っている。

学歴の為だけに大学に行くなんて馬鹿げてるような気もするけど。

でも、奈央とのことを本気で考えてるから仕方ない。



携帯にもう一度視線を戻すと、ちょうど終局し、進藤が勝利したところだった。

これで2勝。

あと1勝で三冠王だ。



先生が入って来て、俺は携帯を片付け、内海さんも自分の席に戻った。

進藤も頑張ってるんやから、俺も頑張ろうと思う。



高校の三年間も終わりが近付いてきた。

俺も進藤も内海さんも、笑って春を迎えれたらいいなぁと思った――









―END―









以上、海王プロ棋士3人組の高3、11月のお話でした〜。
卒業後は佐為はもちろん棋士一本、西条と内海さんは大学に進みます。
中3からずっと同じクラスなので、内海さんもそれなりに西条とも佐為とも仲いいのかな?
内海さんが窪田さんと付き合い出したと聞いて、ちょっとばかり気になってる佐為です。
クラスもずっと同じ、仕事も同じということで、内海さんに今まで恋人がいないことは見ていて明明白白。
そこにいきなり超ハイスペックな窪田さん来るか??と。

窪田さんは6つ年上なのでこの時点で24歳です。
まぁまぁ恋愛に対しても人生経験豊富です。
前に付き合ってた彼女も実は女子アナだし、毎回結構レベル高めな人と交際しています。
そんな窪田さんが平々凡々な内海さんに告るなんて、「本当に?!マジで?!」なレベルで心配になったのです。

窪田さん視点は前に書きましたが、さくらに出会ってからはさくら一筋なんですよ。
今まで付き合ってきた彼女達の両親には一度も会いに行ったこともありません。
さくらの両親だから、もちろん会いに行ってちゃんと挨拶したのですよ。
でもって西条の予想通り、大学卒業と同時にプロポーズするのですよvv
実はこの3人組、全員22歳の4月に入籍しています(笑)