●CONFLICT●





「王座も防衛おめでとう、アキラ」

「ありがとう…」



棋院で行われた今回の王座戦挑戦手合・第三局。

僕は難なく白星をあげ、無事4度目の防衛に成功した。

検討も取材も終えて帰ろうと一階に降りて行くと、ロビーで見知った人物に声をかけられる。

僕の夫――進藤ヒカルだ。



「キミも来てたのか…」

「ああ。ちなみに佐為も彩も来てたぜ。もう帰ったけど」

「そう…」

「疲れただろ?一緒に車で帰ろうと思って待ってたんだ」

「ありがとう…」



一緒に駐車場に移動して、僕は助手席に座った。

ふぅ…と溜め息が思わず出てしまった。


「やっと年内の防衛戦が全部終わったよ…」

「お疲れさん。今年は特にハードだったよな」

「……」


3月の初めから9月の初めまで産休と育休を取っていたせいで、その前後の棋戦スケジュールが大変なことになってしまった。

週に2回タイトル戦を戦うこともザラで、打つだけならともかく、毎回移動もあって。

正直もうへとへとだ……



「年が明けたらまたすぐ女流棋聖の防衛も始まる…」

「そうだな…」

「子供達に申し訳ないよ…本当に。親らしいことを最近全然出来てない気がする…」

「オレだって同じだよ…」

「キミは門下も開いたし、少なくとも一番迷惑をかけてる佐為には還元出来てるだろう?」

「そうかなぁ…」

「キミが弟子を持つなんてね。正直意外だったよ…」

「うん…オレ自身も驚いてる」


息子の佐為だけじゃなく、京田君も弟子に迎えることにしたヒカル。

プロ試験が終わってからは頻繁に研究会も開いていて、次の世代への育成に励む彼の姿は立派だと思う。

それに比べて僕は……



「アキラ、オマエはよくやってるよ。あんまり卑屈になるなよ?」

「…両親にも子供を預けっぱなしで申し訳なさすぎるよ。一体僕は何をしてるんだろうね…」


まだ8ヶ月にもならない双子。

酷い時は週に一度しか会いに行けてない。

このままだと顔なんか忘れられちゃうかもしれない。

いや、既に僕のことを母親だと認識されていないのかもしれない。

考えれば考えるほど落ち込んでくる……



「もう少し…仕事をセーブした方がいいのだろうか…」

「言っとくけど、誰もそんなこと望んでないからな。オレも明子さんも、もちろん子供達も」

「でも僕はキミの妻としての役目ももう果たせない…」

「え…?」

「キミ、昔言ってたじゃないか。奥さんの一番の仕事は子供を産むことだって。僕はそれすらもう出来ない…」

「いや、いやいやいや…もう十分だから!4人もいたら十分だって」

「でもキミ怒ってたじゃないか!」

「そりゃ…勝手にされてちょっとはショックだったけど。でも、オマエのしたことは間違ってないよ…」

「ううん…僕は自分のことしか考えてない…。これ以上妊娠したくないって思ったから…。本当…自分勝手だ……」

「アキラ…」


ヒカルの手が僕に伸びてくる。

優しくぎゅっと…抱き締められる。

彼の胸に収まると、涙が勝手に溢れてきた……


「ごめんなさい……」

「もういいから…」

「ごめんなさ…い…」

「アキラ、本当にもういいから…」

「だって……」


涙が止まらない……

もし処置しなければ、これから産まれるはずだった子もいたかもしれないのに。

僕は子供よりタイトルを取ったんだ。

人としても妻としても…最低だ……


「オレにとってオマエは最高の奥さんだから…自信持てよ」

「どこが最高なんだ…、最低の間違いだ…」

「最高だよ…、だってこんなに美人で可愛くて優しくて碁も強くて頭も良くて…あと」

ヒカルに耳元で囁かれる。



あと――エロくて、と。



「キミ…今の流れでそういうこと言うか普通」

「え〜?だって泣いてるオマエすっげぇソソるし〜可愛すぎるし〜」

もう家まで待てないかも〜、と。


「たまにはラブホでも行く?」

「キミね…」

「子供が出来ないからこそ、エッチって純粋に愛を確かめ合う行為になるじゃん?それって最高だと思わねぇ?」

「…そうだね」

「だからさ、確めに行こうぜ♪」

「…子供達の夕飯は?作らなくていいの?」

「オレを誰だと思ってるんだよ〜。先読みの達人だぜ?佐為達には適当に食べろよって、とっくの昔に言ってある」

「…僕の夕飯は?」

「じゃ、やっぱレストランのあるホテルにしよっか。出てくるの待ってる間に部屋確保してくるから」

「もう……仕方ないな」

「アキラ大好き♪」



でも僕を抱くことしか考えてない能天気なこの夫を見てると、何だかもう僕の悩みなんてどうでもよくなってきた。

ある意味救われる。







結局棋院から車で5分、水道橋にある高層ホテルへ向かった僕ら。

まずは夜景の綺麗な最上階のレストランで夕食を取り、その後部屋に移動して、お互いが満足するまで愛を確かめあった。

ヒカルは相変わらずたくさんの愛を言葉でも囁いてくれる。


好き。

大好き。

愛してる。

一生オマエだけだからな。

一生一緒にいような。



「僕も…一生キミと一緒にいたいな…」



心からそう思う。


僕は一生キミだけのものだ――










―END―











以上、葛藤しているアキラ嬢のお話でした〜。
仕事と家庭の両立…難しいですよね。
仕事が順風満帆で忙しくなればなるほど家庭を犠牲にしなくてはならないわけで…。
ヒカルもアキラも仕事でいない時は佐為に家事を任せているので、まだ中1なのに申し訳ないな〜とアキラさんは思っているのです。
双子も明子さんに任せてばかりで申し訳なく思っているのです。
でも実は佐為も明子さんも別に何とも思ってないんですよ。
アキラさんの考えすぎなのです〜。

でもってアキラさんは処置してしまったことにも実は少し後悔してるのです。
もう妊娠はしたくないのですが、だからといって本当に出来なくしてしまってよかったのか…。
まだ30歳のアキラさんは色々考えちゃってるのです。
能天気ヒカルと違ってね!
棋院のロビーで待ち伏せとか、下心丸出しですからね!

ヒカルもこの日5階の検討室にいました。
佐為も精菜も彩も京田さんも勢ぞろい〜。
対局が終わって、さて帰ろうという時に、ヒカルは佐為に言うのです。

「あ、今日オレ帰らないから!夕飯は適当に食べろよ!」と。

当然佐為は(このエロ親父が…)と内心ツッコんでるのです。
でもって京田さんを含め4人でご飯を食べに行くのです。
支払いはもちろん佐為がします〜。例の口座のお金で。
親にイラついた時はお金を使いまくってやるのです。
といっても1万とかでしょうけどw
佐為は根が真面目やからね…。


ちなみにおまけ話があります。
最後にヒカアキが泊ったホテルのスタッフ視点です(笑)

おまけ