●COLLEAGUES U 1●
※この話は佐為のクラスメート・西条と金森女流二段のお話・その2です。
2月14日――バレンタインデー。
悠一君と付き合い始めて初めての恋人達のイベントだ。
もちろん手作りチョコをあげたい。
あげたいんだけど……家でそれを作る勇気はない。
(だって親に彼氏が出来たことがバレちゃう…)
「奈央、結局チョコ買うことにしたの?」
「うん…。遙ちゃんは?」
「私も。家でなんか作ったら親兄弟に冷やかされまくるからね」
「だよねぇ…」
「一緒に買いに行く?」
「うん!」
放課後に遙ちゃんと一緒にデパートに行くことにした。
来週の水曜がバレンタインデーとだけあって、平日なのにフロアは人で人で溢れていた。
私にとっては生まれて始めて買う本命チョコ。
この場所にいるだけで何だかドキドキした。
「奈央、14日はもう西条君と約束してるの?」
「あ…まだしてないや」
「えー、何してんのよ!予定入っちゃってたらどうするの?」
「あ…どうしよう」
「早く連絡しなよ!」
「う、うん…」
遙ちゃんに急かされて悠一君にメールを送ることにした。
でも14日は水曜日、思いっきり平日で学校も普通にある。
『14日、放課後空いてる?』
送信、と。
すると2分としないうちに返信があった。
『少しなら。15日関西棋院で手合いやから、18時くらいには出発したいから』
18時……
「奈央、西条君なんて?」
「次の日大阪で対局があるから、18時には出発したいんだって」
「大阪?」
「うん…たぶん新人王戦。悠一君本戦まで進んでて、一回戦の相手が関西棋院の人になったって前に言ってたから…」
どうしようか悩む。
悠一君が学校終わり次第真っ直ぐ家に帰って来たとしても17時くらいになる。
つまり一時間くらいしかない。
準備もあるだろうから邪魔したくないな…。
チョコだけパッと渡すことにしよう。
『じゃあ17時半くらいにちょっとだけ家に寄ってもいい?』
『ええよ〜』
よし、とりあえず約束はした。
後はチョコを買うだけだ。
私はまた売り場に足を戻した――
2月14日、バレンタインデー当日。
私は家を出る前にお父さんにもチョコをあげた。
「ありがとう、奈央」
「どういたしまして。お返しは5倍くらいでいいからね」
「はは、分かった。それより奈央も今年は他にもあげる人がいるんだろう?」
――え?
いきなり父にそんなことを言われて、私は耳を疑った。
横にいる母もクスクス笑っている。
「奈央ちゃん彼氏出来たんでしょう?」と。
「え、な、なんで…そう思ったの…?」
「だって奈央ちゃん最近土日も出かけること増えたし。前は一日中碁盤の前に座ってたのに」
「そ、外で打ってるだけだよ…」
「あら誰と?だっていつもすごく可愛い格好で出かけるでしょう?」
かーっと、私の顔は一気に赤くなった。
確かに私がいつも悠一君に会いに行く格好は普段着ではない。
誰がどう見てもデートの服装なのだ。
「同じ棋士の方なの?今度連れていらっしゃいよ」
「わ、私、学校遅れるからもう行くね…っ」
私は羞恥に耐えられなくて、両親の前から逃げ出した。
バクバク心臓がヤバいぐらいに鳴ってる。
どうしようどうしようどうしよう。
両親にバレてしまった。
もちろんうちの両親は娘の交際を邪魔するような人達じゃない。
でも――古い考えの持ち主なのだ。
親が決めた相手と結婚した両親。
もちろんすごく仲がいいから、結果的には不幸な結婚ではないと思う。
娘の私にもそんな結婚を求めてるわけでもない。
でも――やはり節度はそれなりに求めていると思う。
まさか私が既にバージンを失ってるなんて思いもしないだろう。
きっと中学生らしい清い交際を想像してるんだろう。
それに――私は長女だ。
二人姉妹の長女。
両親は何も言わないけど、祖父母には小さい頃から頭に刷り込まれている台詞がある。
「奈央ちゃんがお婿さんを貰ってこの家を継いでね」と――
今時、家の存続がどうとか、考えが古すぎるだろう。
昭和だ。
でも……この前のデートで、悠一君にはお兄さんが二人いると聞いて、私の中でホッとしたのも事実なのだ。
三男だったら、もしかしたらお婿に来てくれるかも?とか淡い期待を持ってしまったのだ。
まだ付き合い始めて一ヶ月のくせに。
何を考えてるんだろう。
悠一君に知られたら絶対に引かれる。
だからあんな堅苦しい家になんか絶対に彼を連れていけない――そう思った。
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