●COLLEAGUES 1●

※この話は佐為のクラスメート・西条と金森女流二段のお話です。





彼氏が出来た。



去年の夏頃から気になっていて、いつのまにか好きになっていた同じ棋士の西条悠一君。

打ち初め式の日に偶然二人きりになって、私の振袖姿を褒めてくれた彼に、私はもう我慢出来ずに想いを口にしてしまった。


「好きです…」と。

「もし良かったら…私と付き合ってくれませんか?」と。


途端に顔を赤めた彼は、少しだけ長考した後、

「俺なんかで良ければ…」

とOKしてくれた。


その場で携帯の番号とメールアドレスを交換して、LINEも登録して。

「また連絡するね」とだけ約束して、お互い持ち場に戻った。








その夜、家に帰宅した頃、彼からメールが届いた。

『今日は嬉しかったです。来週の日曜、どこか出かけませんか?』と。

もちろんすぐにOKの返事を送る。

そして勉強机に置いてある卓上カレンダーに、直ぐ様花丸を付けてチェックした。


「えへへ…デートだぁ」

とベッドにゴロンと携帯を握りしめたまま横になったのだった。













「久しぶり〜」

「冬休みどうしてた?」


新学期が始まった。

私は中学3年生だけど、中高一貫の女子校なので受験はない。

だからこの時期だけど、ピリピリした感じは全然ない。

彼女達クラスメートが一番興味があるのは、相変わらず恋愛ごと。

彼氏持ちの子達は専らクリスマス、年末、初詣と恋人同士の為のイベントをどう過ごしたかお互いに話し合っている。

彼氏がいない子達も、芸能人や他校のカッコいい男子の噂をひたすら続けている。


「私初詣行った時ね、進藤佐為見ちゃった〜」

「えー!海王の王子に会ったの?!いいなぁ〜」

「超カッコよかった〜。私服姿がまたヤバくて、イケメンてホント何着ても似合うよね〜」


彼女達が話してる進藤佐為君は、この春から私と同じプロ棋士になる海王中学の1年生の男の子。

あの一般人にも有名な進藤本因坊と塔矢名人の息子だ。

昨年の秋に行われたプロ試験は全勝で突破。

恐らく今後若手の中では台風の目になる存在だ。

ちなみに私も週刊碁や囲碁雑誌で写真を何度か見たことがあるけど、ヤバいぐらいに容姿に恵まれている。

囲碁なんて全く興味のない彼女達がキャアキャア話すのも無理ないと思った。


そういえば西条君も同じ海王中学だ。

しかも同じ一年生。

進藤君のことは知ってるのだろうか?

今度のデートの時に聞いてみようと思った。




「奈央おはよー。久しぶり!」

「あ…おはよう遙ちゃん」


私の一番の親友、丸本遙ちゃんと会うのは去年の終業式以来だ。

遙ちゃんにはもう半年くらい付き合っている、2つ年上の高校生の彼氏がいる。

だからクリスマスも年末年始も彼女は彼と過ごして、私の入る隙はなかった。

少し寂しいけど、今の私なら気持ちが理解出来る。

西条君と一緒にクリスマスを過ごしたり、初詣に行けたらどんなに幸せだろう。

今年の年末が楽しみだ。



「奈央聞いて聞いて〜」

遙ちゃんが私の耳元でこそっと囁く。

「私クリスマスにさ、ついに彼とシちゃった♪」

「――え?」


ええーー!!と思わず叫んでしまった。

遙ちゃんが慌てて私の口を押さえる。


「ホントに?!どこで?!」と小声で尋ねた。

「彼の部屋。クリスマス平日だったでしょ?だからご両親仕事で留守だったから…」

「そ、そうなんだぁ…。恥ずかしくなかった…?」

「そりゃね」

「痛くなかった…?」

「そりゃね」

「ちょっとは気持ちいいものなの…?」

「……何?奈央、やけに興味津々じゃん。さては何か進展あったのかな?」

「え……」


私は遙ちゃんに前々から西条君のことを話していた。

もちろん応援してくれている。


「実は……」


私は打ち初め式で告白したこと、OKしてもらったこと、そして日曜にデートの約束をしてることも全部彼女に話してみた。


「マジで?!奈央やったじゃん!!」

「うん…すごく嬉しい」

「あ〜だから気になっちゃったのね、さっきのコト」

「え?」

「奈央も近いうちに経験するかもしれないもんね〜」

「え?!」


私の顔は一気にありえないほど真っ赤に染まる。


「無い無い無い!だって西条君まだ中1だもん!遙ちゃんの彼とは違うよっ」

「え〜?今時の中1は結構進んでるよぉ?それに奈央の話を聞く限りではかなり大人っぽいし西条君。さすが小6から社会人なだけあるっていうか〜」

「それは…そうだけど」

「身長も高いんでしょ?」

「う…ん、175はあると思う…」

「じゃあ中1だからって、あんまり油断しない方がいいと思うよ〜?」

「そ、そうなのかな……」

「もしかしたら初デートでいきなりしちゃう可能性だってあるかもよ〜?」

「………」


私の思考はもう付いていけなかった。

私の中ではもしかしたらデートなんだし、キス…くらいはするのかなぁ?とは想像していたけれど。

でも私の想像はそこまでだ。

それ以上なんてまだまだ考えられない。


「ま、それはさておき。とりあえず初デート楽しみだね。奈央、男子と二人きりで出かけるの初めてでしょ?」

「うん…初めて」

「ま、年下だし、あんまり期待し過ぎないようにね。むしろ奈央が引っ張っていってもいいんじゃない?」

「うん…そだね」


私の方が2歳も年上。

そうだよね、私の方がリードしなくちゃね!











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