●COFFEE 3●





夕食後、食後のコーヒーを飲みながら私は今夜のことについて考えていた。


(今夜もたくさんするのかな……)


昼間彩が来ててお昼寝が出来なかった私は、疲労がピークに達していた。

眠い。

今すぐ眠りたい。

でも佐為は今日もしたいんだろうな……



「精菜」

「え?な、何?」

「今夜は別々に寝ようか」

「……え?」



一瞬、頭が真っ白になる。


別々って……



「連日で無理させてたよな。今夜は一人でゆっくり眠って?」

「でも……ベッド一つしかないよ?」

「一応客用布団もあるから、僕はそれで自分の部屋で今夜は寝るよ」

「……」



今夜は寝れる――嬉しいはずなのに、一方で全く喜んでない私がいた。

だって私達はまだ結婚して一週間だ。

新婚ホヤホヤだ。

それなのに一緒に寝ないなんて……



「ベッドで一緒に眠ることは無理なの…?何も別々に寝ること…」

佐為が苦笑してくる。

「精菜が横で寝てるのに、僕が我慢出来るわけないだろう?」

「……」

「とにかく今日は睡眠確保を優先しよう。僕も明日は対局だし」

「……分かった」



再びコーヒーカップに口付ける。

何だかいつもより苦い気がした。












もちろんお風呂も一人で入ることになった。

昨日までは一緒に入っていただけに少し寂しい気がした。

入れ違いで彼もお風呂に入って、出るなり「それじゃ…お休み」と、あっさり彼は自分の部屋に行ってしまった。

お休みのキスすらなかった。

仕方なく私も寝室のベッドに横になる。

やっとゆっくり寝れる――嬉しいはずなのに、今すぐにでも夢の世界に行きたいのに。

何だか全然寝付けない自分がいた。

このダブルサイズのベッドに一人は寂しすぎて、不安ばかり募ってくる。


もしこのまま寝室を分けることになったらどうしよう……

一生一人で寝ることになったらどうしよう……

そのまま家庭内別居とかになったらどうしよう……と、どんどん悲観妄想が膨らんでいく。


一番怖いのは佐為の心が離れてしまうことだ。

結婚したからって彼の人気が落ちたわけではない。

浮気されたらどうしよう……

棋士を辞めてしまった私はもう傍で見張ることが出来ない。

ただ彼の帰りを信じて待つことしか出来ないのだ。


そういえば――明日の対局の記録係はまた女流の女の子だ。

しかも私より若い19歳の女子大生。

棋力は大したことないけど、めちゃくちゃ可愛い子だった記憶がある。

そして何より佐為の大ファンなのだ。

記録係になると傍で一日中佐為を眺められるということで立候補する女流は多い、彼女もその内の一人だ。

一日中彼女の熱い視線を浴びて佐為が変な気を起こしたらどうしよう……

対局後に食事にでも誘って、もしそのまま帰って来なかったら……


想像すると真っ青になる。

無意識に私はベッドから体を起こしていた。

そして勝手に足が彼の部屋に向かっていた。


ノックもせずにいきなり

「佐為!!」

とドアを開けて叫んだ。


「精菜…?」

寝ていたのだろうか、佐為が目を擦りながら布団から体を起こしてきた。

「まだ寝てなかったのか…?」

「寝れるわけないよ!!」

「え……?」


私は彼に抱き付き、そのまま押し倒した。


「どうして一緒に寝たら駄目なの?我慢出来なくなるから?そんなのしなくていいよ!」

「でも、精菜疲れてるだろう…?」

「そりゃ疲れるよ!この一週間、毎晩毎晩朝方までエッチしまくってたら、そりゃもう眠くて眠くて堪らない!」

「だから今日は大人しく寝ようと…」

「だからって何でいきなり別々に寝なくちゃならないの?佐為は極端過ぎるよ!」

「……ごめん」


私は佐為のパジャマのボタンを外していき、現れた彼の鎖骨にキスをした。

もちろん自分のパジャマも脱いでいく……


「精菜……そんなことしたら今夜も寝れなくなるよ…?」

「別にいい。離れて寝るくらいなら寝不足なんてもうどうでもいい」

「精菜……」


佐為が下から私をぎゅっと抱き締めてくる。

チュッと頬にキスされる。


「じゃあ……一回だけいい?」

と耳許で甘く囁かれる。

既に熱のこもった眼で見つめられる。


「いいよ……一回でも二回でも三回でも。好きなだけ私を求めて…?」


そう言うと、直ぐ様彼に噛み付かれるようなキスをされる。

体勢もクルリと入れ替わり、布団に押し付けられる。



(そういえばこの布団でエッチするの初めてだ……)



旦那さまに今夜も求められて、私は安心したように快楽の海に溺れることにした――








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