●COFFEE 1●
「精菜〜来たよ〜」
「いらっしゃい、彩」
私と佐為が結婚して早一週間。
彩が家に遊びに来たので、私は彼女の好きなカフェラテを入れておもてなしをする。
ダイニングで一緒にコーヒーを飲みながら、早速女子トークのスタートだ。
「ここに来るの久しぶり」
「そうなの?」
「うん。お兄ちゃんが一人暮らし始めた直後に一度来たきりだから……4年ぶりかなぁ?」
「あ、覚えてる。確か私もその時いたよね」
「うん。あの時のお兄ちゃん機嫌悪かったなぁ…」
「彩が突然来るから」
「ちゃんと連絡したもん」
「10分前にしてもねぇ…」
あの日のことはよく覚えている。
私が泊まった翌日だったからだ――
******
あの頃は佐為が一人暮らしを始めて、やっと普通のカップル並みに愛しあえるようになったということで……私も彼も喜びが隠せなかった。
一晩中イチャイチャして……もちろん翌朝もしばらくベッドから出ずにイチャイチャし続けていて。
そんな時に突然彩からLINEが来たのだ。
『今から行くね〜』――と。
それを読んだ佐為は当然
『昼からにして』
と返信したのだけど、いつまで経っても既読にならない。
移動中できっと返信に気付いていないのだろう。
つまり――彩が来る!!
ということで私達は慌ててベッドから降りて急いで身支度したのだった。
ピンポーン
数分後にチャイムが鳴った頃には何とか私達は形になっていた。
だけど部屋の片付けまでは手が回らなかった。
寝室も当然――事後そのもの。
それなのに
「わ〜広〜い。さすがお兄ちゃん」
と一部屋ずつ彩がチェックしていくものだから、当然佐為の不機嫌度はMAXだ。
「ここは?」と彩が寝室のドアを開けようとして「ここは駄目だ」と必死にドアを押さえて佐為が抵抗していた。
もちろん大人しく引き下がる彩ではない。
帰り際に「隙あり!!」と寝室のドアを開けたのだ。
もちろん彩が他の部屋を見てる隙にこっそりベッドメイクはしておいた。
でもダブルサイズのベッドを見て彩が「ふ〜ん」と意味深にニヤニヤしたのは言うまでもなく。
私達の顔は真っ赤になってしまったのだった。
「彩…覚えてろよ。今度お前が京田さんちに泊まった翌日に打ちに行ってやるからな!」
「えっ?!それだけはやめてー!お兄ちゃんごめーん!もう二度と来ないから許してー!」
******
「――てなわけで、今日はお兄ちゃんがいない隙に来ました★」
「もう…彩ったら」
面白い義妹にくすくす笑ってしまった。
今日は佐為は進藤門下の研究会で夕方まで帰らない。
彩は佐為が実家にやって来たのを確認してから、ここに来たそうだ。
「で?どう?精菜」
「え?」
「お兄ちゃんとの新婚生活は。楽しい?」
「あはは……」
私は笑って誤魔化すしかなかった。
言えなかった。
確かに楽しい。
楽しいけど…………思った以上に大変だなんて。
(特に夜の生活が!!というかそれ以外は大変じゃない)
「もうエッチしまくり?」
「うふふ……」
言えない……
私達が今お喋りしているこのダイニングテーブルでもシてしまったなんて……
向こうのキッチンでも……
リビングのソファーでも……
もちろんお風呂でも他の部屋でも……
果ては玄関やトイレでも……
この一週間でこのマンションのありとあらゆる場所で体を合わせてしまったなんて絶対に言えない……
もちろん普通にベッドでもしまくっている。
実は毎晩のように複数回求められたせいか、私はこの一週間で疲れて2キロも痩せてしまっていた。
当然目の下のクマも酷く、メイクで隠すのに必死だ。
というか……眠い。
彩が遊びに来てなかったら、間違いなく今頃お昼寝をしているところだろう。
「お兄ちゃん自身はそう思ってないけど、意外にお父さん似だからね〜」
「そうなんだ……」
「お母さんみたいに上手くあしらった方がいいよ。キリないでしょ?」
「……」
実は昨日はあまりに疲れてしまっていて、
「ね、佐為……今日はもう終わりにしない?明日研究会朝からあるんでしょう?体辛くなるよ?」
と2回目を断ってしまった。
「僕は別に大丈夫だけど……精菜が終わりにしたいなら」
シュンとした彼の表情が可愛すぎて、「じゃ、じゃああと一回だけね」と許してしまったのだけど。
彩に「お母さんみたいに」と言われて、ふと女流本因坊戦の時のお義母さんの台詞を思い出してしまった。
『佐為もヒカルの血をひいてるから、精菜ちゃんも結婚したら大変だと思うけど。頑張ってね』
結婚したら大変だと思うけど……
大変だと思うけど……
お義母さんの言う通り、確かに大変かもしれない…。
果たしてこの生活はいつまで続くのだろう。
私は溜め息を吐きながら再びコーヒーを口にした――
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