●CHILDFOOD FRIENDU 1●


12/14はヒカルにとっても、もちろん塔矢さんにとっても特別な日。

でも私にとっても特別な日になったんだよ。

ちょうど5年前からね――



「あかり、結婚しよう」


そう彼にプロポーズされたのが5年前の夏の終わり。

相手は部署は違うものの、同じ会社で働いている3つ年上の人。

いわゆる社内恋愛だった。

すぐにOKした私は、結婚を機に寿退社をする決意をする。


そしてその結婚式の日がなんと―――12/14。


もちろんわざとじゃない。

その当時は塔矢さんの誕生日なんて知らなかったから。

だけど自分の中でも特別な日になると……自然と目につく。

結婚後何年か経って、偶然週刊誌に取り上げられてる塔矢さんの記事を見つけたんだ。

そして彼女の写真のすぐ下に書かれてあったプロフィールを見て、あっ…って気付いた。

同時に納得もした。


どうして………ヒカルが私の結婚式に来てくれなかったのか…。


すっごくショックだったんだからね!

招待状を出そうかどうしようか迷いに迷って、やっとの思いの決断だったのに……『不参加』に○印が付いたハガキが返ってくるんだもん。

しかも端にこんなコメント付き。


『おめでとう。行けなくてゴメン』


おめでとうの言葉にも、ゴメンの言葉にも……チクって少し胸が痛んだ。

ヒカルのバカ!

どうして来れないのよ!

幼馴染みの結婚式より大事なものってあるわけ?!

って……当時はひたすら腹を立ててた。


でも今思うと…納得。

あのヒカルだもん。

何より塔矢さん命のヒカルだもん。

私の結婚式より……絶対塔矢さんの誕生日を取るよね。


あーあ…私って昔と全然変わってない。

成長してない。

相変わらず塔矢さんが羨ましい。

ヒカルの愛情を一心に受けれて、子供も二人も産んじゃって…。

私だって幸せなはずなのに…。

カッコよくて真面目で優しくて収入もよくて…、私には勿体ないぐらいの夫なのに…。

子供にとってもこれ以上ないってぐらいに模範的ないい父親なのに…。

…それでもやっぱり今だにヒカルに恋してる…自分の未練がましさが嫌になる…。


ね、ヒカル。

今日は塔矢さんの誕生日だね。

今年も何よりも優先して…お祝いしてあげるの?












「あ、これ可愛い〜」


12/14――正午。

3年ぶりに二人目を身ごもった私は、長男が保育所に行っている時間を利用して、デパートにベビー用品とマタニティ用の服を買いに来てみた。

今度の子は女の子。

やっぱり可愛いピンク系を中心に買っておこうかな〜。

そう思っていくつか選んだベビー服を買おうとレジに向かっている途中だった。

このコーナーには不似合いな、スーツを着たいかにもキャリアウーマンぽい女性が視界に入ったのは。

そして顔を見た瞬間――私の足は止まってしまった。



……塔矢さん……



少し口に出てたみたいで、彼女が私の方に振り返った。

少し考えた後、私が誰だか思い出したかのように……近付いてくる。


「藤崎さん?」

「そう呼ばれたの久しぶり。今は柵原なんです」

「あ、そうか。何年か前にヒカルに招待状が来てたよね」


相変わらずズキンと胸が痛む。

昔は…私以外の女の子がヒカルのことを名前で呼ぶことなんてなかったのにな…。


「…ヒカルは?今日は一緒じゃないんですか…?」

「うん。明後日まで福岡に出張だから」



え…?



「塔矢さんの…誕生日なのに…?」

「え?」

「あ、すみません。この前偶然…塔矢さんの誕生日と…私の結婚記念日が同じ日だって知って…」

「へー、藤崎さんの結婚記念日って僕の誕生日なんだ。偶然だね」

「ですね…。…でも、驚きました。ヒカルのことだから…てっきり誕生日は一緒に祝うのかと…」

「はは。この年末の忙しい時期に、誕生日ごときで予定を変えるわけにはいかないからね」

「………」


そう…なんだ。

当たり前と言えば当たり前だけど……すごく意外。


「去年はタイトル戦で僕の方が出かけてたし、一昨年はヒカルの方が仕事だったかな。んー…改めて振り替えると、ここ数年ちゃんと誕生日に祝ってもらったことなんてないな」

塔矢さんが少し口を尖らした。

ちょっと…可愛い。

「藤崎さんの結婚式の年もそうだよ。後援会長主催のイベントじゃなかったら絶対に行ってやれたのにー!って嘆いてた」



…え…?



「そうだったんですか…?」

「うん。ま、妻としては正直複雑な心境だったけど」

塔矢さんが苦笑いしてくる。


「知らなかった…。私てっきり…塔矢さんの誕生日だったから…来てくれなかったのかと…」

「僕の誕生日は毎年来るけど、結婚式は一生に一度のことだからね」

「………」


真実を知った嬉しさを隠しきれなくて、顔が緩んでしまう。

奥さんを前にして…失礼なことだと分かってるのに――













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