●TIME LIMIT〜千明編〜 6●






「…どうして…」

「やっぱり気になったから、山鹿さんに調べてもらった」

「山鹿さん…?」

「本因坊戦のスポンサー。この航空会社の取締役。どうせ変装するなら偽名で乗るべきだったな」

「………」

「…さっきの男は誰だ?」

「だ…誰だっていいでしょ?!いつから見てたのよ!お父さんのエッチ!」

「あんな公衆の面前でキスするような娘に育てた覚えはないからな!」

「放っといてよ!もう子供じゃないんだから!!」


「お客様、他のお客様にご迷惑になりますので…。まもなく離陸致します」


CAに注意され、私達は一時休戦することにした。

お互いそっぽを向いてしばらく一言も話さなかったけど、ドリンクサービスが回ってきてカップを受け取る為に手を伸ばすと――お父さんが低い声で尋ねてきた。


「…その指輪、さっきの男に貰ったのか?」

「悪い?」

「…別に」


指輪ぐらい、したっていいじゃない。

お父さんだって、お母さんにあげてたくせに!

彼女には指輪しておいてほしいんだ、とか言ってたくせに!


「…いつから付き合ってるんだ?」

「…高校の卒業式の日に告白されたの」

「あいつも海王高だったのか」

「そうよ」

「今は?」

「大学生」

「K大?」

「違う」


到着するまで、ずっと質問続きだった。

尋問されてるみたいで嫌だった。

なんで全部話さなくちゃいけないのよ…。

恋愛ぐらい、好きにさせてくれたっていいじゃない!



「昨日から福岡に来てたらしいな」

「だから?」

「…泊まったのか?」

「!!」


そんなこと…そんなこと、わざわざ聞かなくてもいいじゃない!


ちょうど羽田に着いたので、恥ずかしさに耐えられず私は逃げ出した。


でも荷物は受け取らないといけないから、またすぐにお父さんに掴まってしまう。



「千明、お前、彼氏が出来たから家を出たいって言ったんじゃないだろうな?!」

「違うわよ!一人暮らしはずっと前から考えてたの!」

「一人暮らしは許したけど、外泊まで許した覚えはないからな!」

「どうして?何がいけないのよ!お父さんだって、初めはまだ15のお母さんと泊まったくせに…偉そうなこと言わないでよ!」

「お前はまだ学生だろ!」

「じゃあ何?!学生は恋愛しちゃいけないの?!」


荷物を受けとって、ダッシュで到着ゲートを出た。


お父さんを迎えにきたのか、それともお父さんから連絡を受けたのか。

ゲートの外で待っていたお母さんが視界に入り―――私は母に抱き着いた――


「お母…さん…」

「千明…」


安心したのか涙が溢れてきた……


「僕に似た人って…やっぱり千明だったんだ」

「……ごめんなさい」

「男と旅行に行ってたんだとよ!」


変な言い方をするお父さんを、私は思いっきり睨んだ。


「違うわよ!会いに行ってただけよ!大学に入って遠距離になっちゃったから!」

「……」

「離れてることの辛さはお父さん達が一番よく分かってるでしょ?!会いに行くのが何でそんなに悪いのよ!」

「悪いと思ってないなら…そんな変装までしてコソコソすんじゃねーよ」

「私だって…したくなかったわよ。誰がこんな格好…。お父さんが普通のお父さんなら……私だって普通に彼氏紹介して、普通に会いに行ってた!」

「……」

「いい加減子供離れしてよ…。私はお父さんの所有物じゃない。もう18よ?恋愛ぐらい好きにさせてくれたっていいじゃない」

「……」



ちょっと……言い過ぎた。


お母さんの車で家に帰る途中、お父さんは黙り込んでもう何も言ってこなかった。


ただ一言、お母さんの

「…勝ったのか?」

という質問には

「ああ…」

と答えていた――









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