●TIME LIMIT〜千明編〜 7●
実家の私の部屋にはもうベッドがないので、その日は客用布団を敷いて寝ることにした。
しかもお母さんの布団のすぐ横に。
二人で寝るの…初めてだ――
「千明。僕ね…妊娠したんだ」
「え…?」
「ヒカルからまだ聞いてなかった?」
「…うん。初耳…」
「今6週目だって。予定日は来年の年明け」
「そうなんだ…おめでとう…」
「ありがとう」
また…弟か妹が出来るんだ……
親子ぐらい歳が離れちゃうけど……
「一昨日に分かったんだ。ヒカルに相談したら一緒に病院行くって聞かなくて。自分は福岡に行かなくちゃいけなかったのに…もう」
ああ……だから、お父さんの行きの飛行機…昨日だったんだ……
「実はね、この子を作ったのは…千明がこの家を出た日なんだよ」
「え…?」
「千明が出て行っちゃったって…大泣きして大変だったんだから。本当…僕が嫉妬するぐらいヒカルって千明千明なんだから」
「お母さん…」
私の前じゃ…お父さん、頑張れよって…普通な顔して送り出してくれてたのに…。
本当は大泣きしてた……なんて。
想像出来るから笑っちゃう。
「千明の代わりを作るわけじゃないけど……ヒカルの寂しさを埋めてあげる子が必要かなって…思って」
「……」
「でも今頃またヒカル…部屋で泣いてるかもね。もう、手に負えないんだから…」
「私……お父さんに言い過ぎた…」
「そう思う?」
「…うん」
お母さんが手を伸ばしてきて……私の髪を頭から撫でてくれた。
まるで…昔、私が両親にしてあげてたみたいに―――
「千明が反省してるなら、ヒカルも今頃きっと反省してるね。もう一度話してくればいい」
「………」
「ちゃんと話せばヒカルは分かってくれるよ。きっとこの世で千明のことを一番大事に思ってくれてる人だから」
「…彼より?」
「だからちゃんと言わないとね。千明にはもう…そういう人が出来たんだって。これからはその人に守って貰うから心配しないで…って」
「……うん」
そうだね……お母さんの言う通りだ。
ちゃんと話さないと…。
私とお父さんはずっと隠し事なんかなかったんだから――
お母さんの部屋を出て、私はお父さんの部屋に向かった。
ドキドキしながら……ドアをノックする――
「…お父さん?」
「千明?」
「入っても…いい?」
「…ああ」
お父さんの部屋に入ると、ベッドで父は昔のアルバムを広げていた――
「それ……私?」
「うん……いつの間にこんなに成長したんだろう…って、ちょっと振り返ってた」
「………」
「駄目だな…オレ。お前の成長をまだ純粋に喜べてない…。千明はもう大人なんだって…認めたくないみたいだ」
「私も…本当はまだまだ子供だよ。大人になろうと背伸びして…ちょっと無理してる」
「オレよりはずっと大人だよ…お前は」
「………」
アルバムには、私が産まれてから…大学入学までの全てが収まっていた。
このアルバムは一体いつまで続くのだろう…。
きっと一生続くんだと思う。
だって私は一生お父さんの娘だから…――
「お父さん…私ね、一ノ瀬凌っていう男の子と付き合ってるの。高校の三年間…ずっと好きだった人なの」
「…お前も一途なんだな」
「うん…『私も』…ね」
私とお父さんは顔を見合わせて…笑ってしまった。
そうだよ、私も一途だよ。
だって…お父さんの子供だもん――
「今度…オレも会ってみてもいいか?」
「うん、紹介する。きっとお父さんも気に入るよ。だって…」
「お前が好きになった奴だもんな」
「うん――」
その晩はやっぱりお父さんとも一緒に寝ることにした。
お母さんの部屋にお父さんを引っ張ってきて、笑っちゃうけどこの歳で川の字で。
でも結局弟と妹にも見つかって、久々に5人で寝てみた。
あ…6人だっけ?
お母さんのお腹の子も合わせたら…ね―――
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