●TIME LIMIT〜千明編〜 3●







なんでいるのよ……!!





待ちに待った土曜日。

意気揚々と羽田に行くと、見覚えのある金髪前髪に慌てて私は隠れた。


なんでいるの??

お父さんの出発は昨日のはずでしょ??



「おや、進藤先生。おはようございます」

「あ、おはようございます」

「先生は昨日先に発たれる予定だと伺ってましたが」

「そうだったんですけど、ちょっと、やぼ用で」


はは…と、知り合いらしきお爺さんに苦笑いした。


もう!やぼ用って何よ!

ちゃんと予定通りに遂行しなさいよ!

しかもこのターミナルにいるってことは……おそらく同じ飛行機。

たぶんクラスは違うだろうけど、見つかる可能性が大なことには変わりない。


念のため美鈴に借りてきたフルウイッグを慌ててトイレで装着した。

付け睫毛も付けてメイクも濃くしよう。

服も、いつもよりちょっとギャル系に。









「進藤……大学入ってずいぶん変わったな」


おかげで、博多駅まで迎えに来てくれた一ノ瀬が変わり果てた私を見て面食らっていた。


「お父さんと飛行機一緒だったのよ…」

「はは、それでその姿か。やるなぁ…。俺も一瞬誰だか分かんなかった」

「一ノ瀬の部屋に着いたら着替えるから」

「うん、こっち」




博多駅から地下鉄で数駅。

一ノ瀬の部屋は7階建ての学生用のアパートの3階。

ワンルームの小さな部屋だった。


「進藤のマンションと大違いだろ?」

「でも、片付いてるね。偉い」

「昨日急いで片付けたんだ」

「やっぱりね」


クスッと笑った私を一ノ瀬が抱きしめてきて―――キスされた。

そのまま一ヶ月ぶりに体を合わせて……気持ちを確かめ合った。



「進…藤……好きだ…」

「私…も……」



セックスって素敵な行為だと思う。

でも、今の私と同じ位の時のお父さんとお母さんは……馬鹿みたいに辛い恋人ごっこで同じことをしていたらしい。

一方的にお父さんが好きで。

お母さんは自分の気持ちに気付いてなくて。

気付いてないのに…私まで作って――



『千明はいい恋愛してくれよな』



…って、全てを私に話してくれた時に、お父さんはそう言った。

中学に入ったばかりの時だった。


うん、私…いい恋愛してるよ。

高校で初めて一ノ瀬と会った時から気になってて…好きだった。

彼も同じだったんだって。

やっと想いが通じたのに、遠距離になっちゃって……ちょっと辛いの。

たまに会える時間を大事にしたいの。


だからね、お父さん。

邪魔しないでね!


いつか…ちゃんと紹介するから―――









「進藤…化粧したら綺麗なんだな」

「それ…褒め言葉じゃないよ?素がブスみたい」

「ブスなわけないだろー!素が美人だから化粧したらすごく映えてるって言いたかったんだよっ」

「ふーん…」

「母親似?」

「うん…一緒に出かけると、よく姉妹に間違われる」

「お母さん何歳なんだ?」

「確か……39かな」

「若っ」

「うん…私をハタチで産んだらしいから」

「ハタチって……俺らももうすぐだぜ?」

「うん……すごいね」


19歳で妊娠して20歳で出産だなんて……今の私には考えられない。

大学出て、ロースクール出て、司法試験受かって、研修受けて働き始めて―――それから更に何年後かだ。



「進藤ん家って…デキ婚?」

「…ううん。そのうち…話すね」


お父さんが一人で私を育ててくれたこととか…。

8歳の時にやっと両親が結婚したこととか…。

だから弟妹と歳が離れてるんだってことも…。



「まぁ…今幸せならどうでもいいことか」

「うん…どうでもいい。今一ノ瀬と一緒に居られることが幸せ」

「俺も♪」




お父さんとお母さんも、今…幸せだよね?










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