●TIME LIMIT〜千明編〜 2●






「あ〜〜全然お金ないー」


通帳を見て、思わず叫んでしまった。

私の部屋に遊びにきて、ベッドで雑誌を読んでる美鈴がくすくす笑ってくる。


「仕送り増やしてもらえば〜?」

「無理だよ…ただでさえ本当は通える距離なのに、一人暮らしさせてもらってるんだから。学生にしてはいいマンションに住まわせてもらってるし…」

「おじさん千明に甘いから大丈夫だと思うけどなー」

「理由聞かれたら終わりだもん…。嘘つきたくないし…」

「そりゃそうだ」


彼氏に会いに行く為の費用がないから……だなんて、口が裂けてもお父さんには言えない。

バレたが最後、もう家に連れ戻されるかも……


それに、親に頼るのって何か違う気がする。

今の私より遥かに下の、中学の時から両親が働いて貯めたお金だもん。

もう最低限の仕送りで十分だ。



「やっぱバイトするかぁ…」

「千明なら、家庭教師がピッタリだよね♪K大なら需要ありまくりだろうし」

「うん、同じ科の子にどうしてるのか聞いてみる」



こうして私は週2で家庭教師のアルバイトを始めることになった。

生徒は来春に高校受験を控えた中三の女の子。

私のマンションからはすぐ近くの家なので、通うのはすごく楽だった。







♪〜〜♪〜♪〜〜♪

ピッ


『あ、千明か?明日夕飯家で食べないか?』


お父さんからまた催促の電話。

もう、週に一回はかけてくるんだから。


「えー無理。バイト入ってるもん」

『バイト?』

「うん、中三の女の子の家庭教師始めたの。だから火・木はこれから無理だから」

『そうか…じゃあ仕方ないな』

「明後日ならいいよ」

『明後日はオレが遠征なんだよ。福岡で本因坊の防衛戦』

「え?福岡…?」

『ん?うん』

「……」


…ずっるーい。

私が行きたくて行きたくて仕方のない福岡に、お父さんは仕事で簡単に行けちゃうんだから。

しかも今週末??

私もやっと行けると思って飛行機予約したのに、これじゃあ絶対キャンセルじゃない。

鉢合わせたら……大変だし……


『千明?どうかしたのか?』

「…別に。じゃあまた来週ね。防衛頑張って」

『ああ…』


ピッと切って……そのまま携帯を握りしめた。

やっぱり行けなくなったって……一ノ瀬に連絡しなくちゃ。

もう…最悪。

お父さんのバカ……













『え?来れなくなった…?』

「うん…ごめん。ちょうどお父さんも今週末福岡らしくて…。鉢合わせたら困るから…」

『えー?鉢合わせなんて有り得ないだろ。だってお父さんは仕事なんだろ?』

「うん…オークラでタイトル戦。でもお父さん結構合間に出かける方らしいし…しかも天神の近くだし」

『大丈夫だと思うけどな…。それにもし鉢合わせても、俺ちゃんと挨拶するし』

「怖いこと言わないで!私のお父さんだよ??」

『うん、進藤のお父さんだろ?テレビで見たことあるけど、若くて優しそうでカッコイイお父さんじゃん。むしろ会ってみたいぐらい』


駄目だ……この彼氏は全然お父さんのことを分かってない。

もともと娘の彼氏に会っていい気分な父親はいないぐらいなのに。

私のお父さんは特に異常。

私への執着心はハンパない。

きっと彼氏なんかいるのが分かったが最後、絶対に実家に強制送還だ。

門限付けられて、福岡に一人で行くことも禁止されて、しかも泊まってるなんてことがバレたらもう………死ぬ。



『そう悲観的になるなよ、大丈夫だって。飛行機だって今からキャンセルじゃ手数料かなり取られるんだろ?勿体ないじゃん』

「無理…」

『進藤が来ないのなら、今週末俺がそっちに行くからな』

「え……」

『入学して以来一度も会ってないじゃん…俺ら。もう限界なんだよ…』



そんな風に言われたら……私……



「……どうなっても知らないから」

『うん、楽しみにしてる』



ああ……神様。


どうかどうか、お父さんにだけは会いませんように――












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