●TIME LIMIT〜千明編〜 1●
フラれても…同じ女性に何度もアタック出来る男性がこの世にはどのくらいいるのだろう――
「俺、福岡の医学部受かったんだ」
「おめでとう」
18歳。
高校卒業を間近に控えた初春――私はずっと好きだった男の子に校舎の屋上に呼び出された。
「進藤はK大だろ?勿体ないよなー。進藤なら東大だって絶対受かったと思うのに」
「国立はキャンパスが古くて嫌なんだ」
「はは」
「一ノ瀬は……それじゃあ向こうで一人暮らしするんだね」
「ああ…」
「……」
春になったらお別れ。
卒業式が最後。
そしたらもう…同窓会でもない限り会うこともない。
それが嫌だから、彼は今日私をここに呼んだのだろう。
「卒業しても…進藤とは終わりにしたくない。ずっと好きだったんだ。俺と…付き合ってほしい」
「……」
本当に嬉しかった。
好きな人に好きって言われることが、こんなにも胸が踊ることだったなんて。
こんなにも心が張り裂けそうなぐらい満たされることだったなんて。
でも、私は……頭を下げた――
「…ごめんなさい」
「え…」
そのまま彼を屋上に残して、私は立ち去った――
『千明のバカ!』
家に帰って、そのことを電話で美鈴に報告すると、バカバカバカ!って何度も怒られた。
『頭いいくせに何でそんなにバカなのよー!!信じらんない!』
「だって…」
『あのね、おじさんみたいな人はレアなのよ?今時の男は、フラれたら普通みんな諦めちゃうの!ずっと好き、なんて有り得ないんだから!』
「やっぱりそうなのかなぁ…」
『そうよ!しかも一ノ瀬君、福岡に行っちゃうんでしょ?大学生活始まったらまた新しい出会いがいっぱいあるし、きっと千明のことなんか忘れて向こうの九州女子と恋愛しちゃうわよ?!あーあ、勿体ない』
「でも…それなら別にもういい。その程度の想いだったってことでしょ…?」
『も〜なんでそうなるのよぉ!まだ卒業式が残ってるんでしょ?まだ間に合うって言ってんのに!』
「もういいもん」
『……はぁ』
電話の向こうで大きな溜め息をつかれた。
だって、だってだってだって…。
一回フラれたからって簡単に諦めちゃう男に…用はないもん。
その程度にしか想ってくれない男の人とは…付き合えないもん。
『ホント千明って…ファザコンなんだから』
「べ、別に…私は…」
『確かにおじさんって凄いよね…。おばさんにフラれてもずーっと好きだったんでしょ?千明が憧れるのも無理ないと思う…。でもね、それを自分の恋愛にも求めるのはおかしいと思う』
「……」
『好きな人を試してるだけじゃん…。告白って勇気いるんだよ?せっかく勇気出して告白してくれたのに…試すなんて可哀相だよ』
「……」
『千明も一ノ瀬君のこと好きなんでしょ?もし逆の立場だったら…辛くない?』
「…すごく…辛い」
つらすぎる。
せっかく両想いなのに…試すだけの為にフラれるなんて絶対に嫌だ。
私だって…一度フラれてる相手にもう一度告白なんて…絶対出来ないくせに。
しかもお母さんは試してなんかいなかった。
ただ、自分の気持ちに気付いてなかっただけ。
私は気付いてるのに…。
お母さんは後悔してた。
私は後悔なんてしたくない…――
『卒業式…頑張りなよ。きっとまだ間に合うから』
「うん…」
そして迎えた3月1日――卒業式。
緊張の面持ちで教室に向かうと、告白前と同じように「おはよう」と一ノ瀬が挨拶してくれた。
「あ…うん。おはよ…」
「進藤、ちょっといい?言っておきたいことがあって…」
「あ…私も」
再びあの屋上に連れ出された。
言っておきたいことって何だろう…。
でも、何を言われても私は私の気持ちを伝える。
たとえもう間に合わなくても―――
「俺さ、後期の願書出したんだ」
「え?」
「やっぱこっちの大学もう一回受ける」
「え…じゃあ福岡の大学は…」
「行かない。…遠恋なら向こうでもよかったけど、お前にアタックするにはこっちにいないと出来ないからな」
「え……」
「一回フラれたぐらいで俺が諦めると思うなよ?伊達に三年間好きだったわけじゃ―――」
言い終わらないうちに――私は彼に抱き着いていた。
嬉しくて、涙が出てくる――
「…ごめんなさい。私も本当は一ノ瀬のこと…ずっと好きだったの」
「え…?マジ…で?」
「変に意地になってて……後ですっごく後悔した」
「進藤…」
一ノ瀬が、私の体を抱きしめ返してきた。
「じゃあ……俺と、付き合ってくれる…?」
「うん…。私と…付き合って――」
私の涙を指で拭ってくれた後――私と彼は唇を合わせた――
でも、これで油断したのか、一ノ瀬は後期で受けた横浜の大学を落ち、やっぱり福岡の大学に行くことになってしまった。
しばらく遠距離恋愛になるけど……まぁたった6年だし。
お父さんとお母さんが離れてた8年よりかは短いかな〜なんて、自分を慰めてみた。
一方、美鈴は大学入学を期に上京。
私も実家を出て、美鈴と同じマンションで一人暮らしを始めることになった。
待ちに待った大学生。
司法試験合格を目指しつつ、恋愛も楽しみつつ、私の大学生活がスタートするのだった――
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